「ジェノサイド」を否定 イスラエル批判許さぬ米国の異様を読み解く

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国際政治学者・三牧聖子=寄稿
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国際政治学者・三牧聖子さん 寄稿

 ガザで起きているのは、パレスチナ人のジェノサイド(集団殺害)ではないか。国際社会の懸念はいよいよ強まる。

 2023年10月7日、パレスチナ自治区のガザを拠点とするイスラム組織ハマスがイスラエルに越境攻撃を行い、イスラエル市民ら1200人が犠牲となり、200人超が人質とされた。これに対し、イスラエルが「自衛」のための措置として、ガザ全土で展開してきた軍事行動は、1月14日に100日を迎えた。

 ガザの保健当局によると、市民の犠牲は現在、2万5千人超にのぼり、そのうち1万人超を子どもが占める。AP通信によれば、ガザで行われている破壊は、2012年から2016年にかけてシリアのアレッポで行われた破壊、2022年にウクライナに進攻したロシア軍によるマリウポリの破壊、第2次世界大戦中の連合国によるドイツ空爆以上の烈度の破壊だという。

 12月末、南アフリカは、イスラエルの軍事行動は、ジェノサイド条約が定める「ジェノサイド」にあたると国際司法裁判所(ICJ)に訴えた。だが、この南アフリカの提訴をアメリカは、「イスラエルがジェノサイドを遂行しているという主張は根拠がない」と、真正面から否定してきた。さらに、「イスラエルを激しく批判する人々こそが、ユダヤ人の大量殺戮(さつりく)を呼びかけている」と、イスラエルを罪に問おうとしている側にこそ「ジェノサイド」の意図が疑われると糾弾すらしてきた。

 アメリカがいかにパレスチナ人の苦しみに冷淡かを象徴したのが、ハマスによるテロから100日の区切りに、米バイデン大統領が発した声明だった。声明には、ハマスに拘束された人質に関する言及のみがあり、パレスチナ人の犠牲が約2万4千人にのぼること、ガザで1日10人にのぼるペースで四肢切断の子どもたちが生まれていること、住民の9割が強制移住の状態にあること、そして4割超が危機的な飢餓状態に陥っていることへの言及は一言もなかった。

 もちろん、ガザでのイスラエルの軍事行動が法的な意味でジェノサイドに当たるかどうかは今後、慎重に審議される必要がある。しかし、この短期間にガザでは人口の1%以上にあたる人々が殺され、子どももこれだけ犠牲になり、支援物資搬入の制限で組織的な飢餓が起こっていることは、「ジェノサイド」という言葉で表現されてよいほどに衝撃的であり、「自衛」の名のもとに正当化されるはずがない。バイデン政権はこの事実から目を背け続けている。

パレスチナ系議員に「ハマスの共犯者」

 それどころかアメリカには、イスラエルの軍事行動への批判を封殺する異様な雰囲気が広がる。イスラエルを批判し、パレスチナへの連帯を表明する人は「反ユダヤ主義」だと批判され、さらには「ユダヤ人のジェノサイドを扇動している」と糾弾の対象にすらなってしまう。

 アメリカの言論状況の異様さ…

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