スラム街からタイの最難関大へ 学費の壁、日本から差し伸べられた手

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バンコク=大部俊哉
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 はじまりは5歳の時、祖母が連れて行ってくれた海だった。

 タイの首都バンコクに近いバンセンビーチから見た、果てしなく広がる青。そこに水族館があり、照明によって様々な色に染まるクラゲや、懸命に泳ぐ小さな魚の姿に目を奪われた。

 大学に行って海の研究者になりたい、と夢見るようになった。でも、スラムで育った自分には手の届かない夢だ。そう思っていた。

 ワヤコーン・ウマさん(18)は、バンコクにあるヤンナワー・スラムで生まれ育った。今は祖父母と叔父と妹との5人で暮らす。

 幼い頃に父は家族を残して出て行った。再婚して別居する母は職が見つからず、仕送りは望めない。

 祖父と叔父は寝たきりで、自宅でランドリー業を営む祖母のルーンティプさん(64)が1人で家計を支える。休みなく働いて月収は平均約7500バーツ(約3万円)ほど。タイの世帯当たりの1カ月の平均生活費の3分の1にも満たず、日用品も自由には買えない。

 ルーンティプさんは「勉強は大切」と孫2人に話してきた。自身も貧しい家庭に育ち、家の手伝いで学校に通えず、字の読み書きも得意ではない。「貧困から抜け出すには知識が必要」と感じていた。

 その教えの影響で、ワヤコーンさんには授業に集中する習慣が付いた。放課後はインターネットで学術論文や研究者のSNS投稿を探して読んだ。図書室で小説や漫画も読みふけった。

 高校1年の時、進路希望に書…

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