春を待つ運転手が決めた覚悟 独りでも「どこも逃げんとおるさかい」
傷ついた半島のまちを、白と黄色のタクシーが駆けていく。
屋根には「スズ」のあんどん。
激しく揺れた元日から数えて13日目。石川県珠洲市のタクシー会社2社のうち、「スズ交通」は営業を続けていた。
といっても、復帰した運転手は白木憲一さん(70)ただ一人。
「さすがに疲れてきた。ずっとひとりぼっちなんだから」
この日もハンドルを握った。
忘れたいこともある。
◇
午前9時半ごろ。雪が降っていた。
珠洲市総合病院で待っていた女性(86)を乗せた。白木さんの車で病院に薬をもらいに行き、その帰り。
女性は、倒壊を免れた自宅で独り生活している。「運転手さんがおって本当に助かったわ」
被災地を走るタクシーに記者が同乗しました。車内の会話から、被災者の絆が伝わってきます。白木さんには、春になったら「やってみたいこと」があるそうです。
自宅への道すがら、白木さんが後部座席に向かって話しかけた。
「ばあちゃん、たべるがある? ちょっと待っといて」
料金メーターを止め、会社に…
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