「宇宙世紀は来ない」ガンダム描いた富野由悠季が見据えるリアルとは

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聞き手・市野塊 竹野内崇宏

 今なお根強い人気があるアニメ「機動戦士ガンダム」は、人類が宇宙に進出した時代「宇宙世紀」が舞台です。日本人宇宙飛行士による月面着陸や、民間企業による宇宙旅行の計画が進むなど、人類の宇宙進出が現実味を帯びてきました。ガンダムの生みの親で、映画監督・原作者の富野由悠季さん(82)は、今、何を思うのか尋ねました。

 ――ガンダムで描かれた宇宙世紀は現実に訪れそうでしょうか。

 ガンダム・ワールドで考えるような宇宙世紀は来ないでしょう。

 ――きっぱりと否定されて驚きました。ガンダムが最初に放送された40年ほど前よりも技術が進んだと思うのですが。

 夢を売るという意味で、アニメで宇宙開発のシミュレーションをしましたが、現実的ではないと考えるようになりました。月や火星への飛行を目指す民間企業などが、簡単に宇宙開発について発言しているのはナンセンスに近い。

 まず、現在の移動手段が、打ち上げだけで生きるか死ぬかがかかっているロケットのような技術しかないのが問題です。あれを新幹線と同じような移動のための乗り物と思えますか。

 次に、宇宙空間での衣食住について。(1620年に英国からアメリカ大陸に渡った)メイフラワー号が新大陸でアメリカ合衆国を建国できたのは、そこに水と空気と土地があって、先住民が住んでいたことで、人が住めることが明らかだったからです。宇宙はそれが一切合切ない。宇宙開発を目指している企業の責任者は、人が宇宙に住むことの深刻さを想像できていません。

「坊や」のような宇宙開発

 ――衣食住というと、ガンダム作品では細長い筒のような巨大な居住空間「スペースコロニー」をつくり、その中で人々が生活しています。

 あの規模の建設は絶対に不可…

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この記事を書いた人
市野塊
サンフランシスコ支局
専門・関心分野
気候変動・環境、医療、テクノロジー
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    佐倉統
    (実践女子大学教授=科学技術社会論)
    2024年1月24日2時39分 投稿
    【視点】

    ガンダムの創造主に「衣食住について考えが至らない宇宙開発は『坊やだよね』」と言われると衝撃は大きいが、冷静に考えてみるとこれは宇宙開発に限らずすべての技術開発に言えそうだ。VRや生成系AIが世を賑わしているが、衣食住との間には大きな隔たりが

    …続きを読む
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    遠藤謙
    (エンジニア)
    2024年1月24日8時8分 投稿
    【視点】

    2005年当時、マサチューセッツ工科大学の航空宇宙工学に留学に来た学生たちには、「RA難民」が何人もいた。RA難民とは航空宇宙工学の研究予算が大幅にカットされ、研究室で雇えるリサーチアシスタント(大抵は学生)の枠が少なくなったからだ。せっか

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