介護上等!ヤンキーになった鬼婆 グッズやホラーメニューが続々登場

酒本友紀子
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 思わず二度見した。

 「介護上等」と書かれたハイテク電動車いすに乗り、こちらをにらむ老女。黒ずんだ皮膚、見開いた赤目。白髪から角がのぞく。今にも走り出しそうな迫力だ。

 ここは福島県二本松市の「安達ケ原ふるさと村」の売店コーナー。おっかない老女は、歌舞伎や能の題材として有名な「安達ケ原の鬼婆(ばば)伝説」をもとにしたアート作品「ヤンババ」だ。

 奈良時代、都で病身の姫に仕えた乳母が「妊婦の生き肝を飲ませれば治る」との易者の言葉を信じ、安達ケ原の岩屋にたどり着いた。ある日、若い夫婦を泊め、産気づいた妻の生き肝をとった。その妻が実の娘だと知った乳母は鬼と化し、人を襲うようになった――。

 そんな悲劇の鬼婆が今、ブレークしているという。ふるさと村を運営する二本松市振興公社の有志が作品のインパクトに目を付け、2020年夏に「オニババプロジェクト」を発足。その顔をプリントしたメモ帳や缶バッジを作ると「面白い」と話題に。まんじゅうやクッキーといった土産物も評判で、一番人気の「オニババ煎餅(せんべい)」は月1千枚ペースで売れている。これまでに30種類以上の商品が生まれた。

 作品の人形部分はもともと、ふるさと村に立つ五重塔に鎮座していた。「気持ち悪い」と不評で倉庫に眠っていたところ、2016年に地元を舞台にした芸術祭が開かれることになり、アニメ制作会社「ガイナ」の浅尾芳宣社長(55)が作品に生まれ変わらせた。

 鬼婆の凶悪さを生かすため、車いすの白いボディーを黒く塗り、派手なパーツを加えて「ヤンキー車」仕立てに。「介護される状態になっても自分らしさを失わない姿」を表現したという。

 ヤンババは普段、有料施設「先人館」のロビーにいるが、12~3月は予約制で来場者が減るため、この期間のみ売店でにらみを利かせる。

 グッズデザイン担当の吉清水朋子さん(47)は、物心ついた頃から親に「悪いことすっと、鬼婆に食われんだかんな」と言われ、恐れてきた。大人になって改めて鬼婆伝説に触れ、「背景には深い愛の話があると知った。今では鬼婆がいとおしい」。

 ふるさと村の隣にある観世寺(かんぜじ)の境内には、鬼婆が住んでいたとされる岩屋、血の付いた出刃を洗ったという池が残る。さらに宝物史料館をのぞくと、鬼婆が実際に人をあやめた際に使ったとされる出刃や人肉を煮たという鍋、鬼婆を描いた掛け軸など伝説関連の14点がずらりと展示されていた。

 中村円昭住職(51)は「寺を創建した僧侶が観音像を使って鬼婆を退治したと言われています。鬼婆が葬られたとされる黒塚が寺の近くにありますが、出刃や鍋はそこから出土したんですよ」。残念ながら、史料館の中は撮影禁止だった。

 最近は、鬼婆への理解を深める「オニババDeep Loveツアー」が企画されたり、「鬼婆血の池カレー」「ドクロラーメン」「おにばばソフト」など、ふるさと村のレストランや市内の道の駅で鬼婆伝説から着想を得たホラーメニューが続々と開発されたり。

 鬼婆の快進撃は止まりそうにない。(酒本友紀子)

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