第8回「剝奪感」が大きいロスジェネ世代 「戻るべき現実」がある社会こそ

有料記事

聞き手・光墨祥吾

識者に聞く京アニ事件① 甲南大学教授・阿部真大さん

 36人が死亡した京都アニメーション放火殺人事件。裁判では、青葉真司被告(45)の半生が明らかになりました。こうした事件を再び起こさないために、社会に何ができるのか。識者とともに考えます。

 初回は、甲南大学教授の阿部真大さん。青葉被告と同じ世代の社会学者として、この世代が持つ課題と、どう乗り越えるのかについて語っていただきました。

    ◇

家庭からも、地域コミュニティーからも排除

 考えなければならないのは、青葉被告には現実の世界に「居場所」がなかったのではないか、ということです。

 青葉被告は幼少期に親の離婚や父親からの虐待があり、不幸な家族環境だったと思います。

 育ったのは、埼玉県郊外。そして、核家族です。近所の商店街で、親しいおじちゃんやおばちゃんがいるといった濃密な地域コミュニティーは乏しかったように思います。裁判の中でも、そのような記憶は語られませんでした。地域コミュニティーの希薄な中での家庭内不和は、本人に与えるダメージがとても大きいです。

 1970~80年代、「暴走族のライフコース」とでも言うべきものがありました。家庭内で不和があり、グレて、学校に通わなくても、暴走族に入って、そこで仲間を作ることができる。暴走行為をしながらも、最終的には地元の雇用システムに組み込まれていく、というものです。逸脱少年はこうして社会化されていったのです。

 家庭内不和があっても、「あそこの家の父ちゃん、いい加減だから」などと地域の人たちは事情を何となく知っている。結果、「悪い仲間」とつるんでも、最後は地域社会が受け入れる形で、地元で仕事をして生活を続けられます。

 青葉被告の場合、家族から排…

この記事は有料記事です。残り2408文字有料会員になると続きをお読みいただけます。

※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません

  • commentatorHeader
    西岡研介
    (ノンフィクションライター)
    2024年1月23日8時0分 投稿
    【視点】

    これまでは、事件を起こすまでの青葉被告の半生を丹念に追ってきた同連載。今回からは、どうすれば、あの「戦後最悪」といわれる殺傷事件を、未然に防ぐことができたのか−−を、考えるシリーズとなる。

    …続きを読む
  • commentatorHeader
    長島美紀
    (SDGsジャパン 理事)
    2024年1月24日8時46分 投稿
    【視点】

    私自身「ロスジェネ世代」だということもあり、阿部真大さんのコメントを非常に興味深く読みました。 はじめて「ロスジェネ」という言葉を聞いたのが30代の頃だったと思うのですが、「自分たちの世代は何かを失った、とみなされているのか」と複雑な心境

    …続きを読む
京都アニメーション放火殺人事件

京都アニメーション放火殺人事件

2019年7月18日、京都市の京都アニメーション第1スタジオが放火され、36人が死亡しました。京都地裁は2024年、青葉真司被告に死刑判決を言い渡しました。関連ニュースをお伝えします。[もっと見る]

連載螺旋 ルポ青葉真司被告(全14回)

この連載の一覧を見る