大火災から再起した単館映画館 「すべて失い、それで気付いた幸せ」

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安斎耕一

 北九州市にある県内最古の単館系映画館「小倉昭和館」。昨夏の火災で焼失したが、多事多難を乗り越え、今月19日から営業を再開した。再建後初めての年越しを迎えようとしている。

 昨年2度の大火に遭った旦過市場一帯には、年の瀬の活気が戻っていた。正月の食材などを買い求める客らでごった返し、通り抜けるのもやっと。その隣に建つ小倉昭和館のレトロなネオン看板に、夕方になると明かりがともる。

 前を通る人々は写真を撮ったり、中をのぞいたり。市内に住む60代男性は「昭和館は小倉のシンボル。やっぱりあると安心する」。約半世紀通うという別の60代男性は「映画監督や俳優らがスクリーンを飛び出してイベントに参加するなど、客と接する機会を作ってくれたのが昭和館なんです」と話した。

 1939年、芝居小屋兼映画館として創業した。樋口智巳さんが3代目館主に就いたのは2012年。複数のスクリーンを備えるシネマコンプレックスが全国に広がり、経営は火の車だった。

 だが、企業や個人への劇場レンタルや、映画人らのトークイベント開催など、「映画+α」の楽しみを次々と仕掛けた。シネコンとの差別化を図り、19年に赤字を脱した。

 まさにこれからという時に起きたのが、昨年8月10日夜の火災だった。

 閉館するか、再建を目指すか…

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この記事を書いた人
安斎耕一
山形総局
専門・関心分野
地方のくらし、美術、映画、手仕事、民藝、やきもの
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    サンキュータツオ
    (漫才師・日本語学者)
    2023年12月31日13時1分 投稿
    【視点】

    映画館、本屋、ライブハウス、個人経営の飲食店。 「街」をそこでしか味わえない空間にするのは、こうした心を持った人たちの奮闘あってこそ。大げさにいえば、「哲学」といっても「魂」といってもいいと思います。 そしてこれらが「文化」を醸成していきま

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