ある日突然、「負動産」の相続人に のしかかる管理責任に困惑
真冬の北海道。かつてニシン漁で栄えた町の大通りは、空き家が目立ち閑散としていた。
京都市に住む男性(67)は2019年12月、この地に降り立った。
ここで旅館を営んでいたおばが亡くなった、と親類から聞かされた。おばには子どもがおらず、男性の父が法定相続人になるという。高齢の父に代わって相続手続きを進めることになり、司法書士と現場調査に訪れた。
北海道におばがいることは知っていた。子どもの頃、旅館に行った記憶もある。だが、それ以来つきあいはない。突然、遠く離れた北海道の不動産の相続手続きをすることになるとは思いもしなかった。
おばの遺産は、旅館兼住宅の土地建物や山林など8筆。600万円ほどの預貯金もあった。7人いた相続人全員の合意を取り付け、男性が遺産を処分することになった。
ある日突然、遠く離れた北海道の土地建物の相続手続きをすることになった男性。不要なのに手放せず、管理責任だけがのしかかる「負動産」を前に、男性はある手を打ちました。
元旅館の建物は風雪にさらされ、老朽化が進んでいた。中ではスズメバチが巣を作り、動物が侵入して荒らした跡もあった。近所の人に「もらってくれないか」と頼むと、「金を積まれてもいらん」とにべもなかった。処分したくてもできない「負動産」だった。
困り果てた男性は、おばの残した預貯金を使い、建物を解体して更地にすることにした。更地なら国や自治体が引き取ってくれるかもしれないと考えたからだ。
新制度、でも高いハードル
国は23年4月、相続したが「手放したい土地」が管理不全となるのを防ぐため、国が土地所有権を引き取る「相続土地国庫帰属制度」を始めた。
法務省によると、同年11月末までに1349件の申請があり、48件の土地を引き取った。事前の相談件数は約1万9千件に上る。担当者は「これまで『税金を使って引き受けるのは理解が得られない』と言い続けてきたが、要件を満たせば国は嫌と言えない画期的な制度」という。だが、要件のハードルは高い。建物がない▽境界が明らかで権利関係の争いがないことなどに加え、「10年分の管理費」として20万円以上の負担金が必要だ。
解体費用も自己負担となる。男性の場合、元旅館の解体に約450万円かかった。おばが残した預貯金は解体費のほか、海外にいた相続人の生死を証明するための調査費用などで消えた。
更地の処分方法が決まらない…