バラエティー化し迷走、NHK紅白は続くのか 識者が予想する未来図
誰もが知っている流行曲はなく、出場者のラインアップには疑問の声が上がる。視聴率も低下傾向だ。そもそも多様性が叫ばれる時代に男女対抗を続けることにも限界があるのでは……。NHK紅白歌合戦は時代を経るごとに、どのようにあるべきか方向性を見失っているのではないか。迷走が続く紅白だが、その引き金は1980年代からすでにあったと、ポピュラー音楽研究者で大阪公立大学教授の増田聡さんは言う。その上で、紅白は今後も生き残るとも。話を聞いた。(聞き手・堀越理菜、取材協力・張佳能〈大阪大学研究員〉)
――今年の紅白は、性加害問題で旧ジャニーズ事務所の所属タレントの出場がゼロになりました。視聴率が下がるかも注目されています
「紅白の長い歴史から見れば、ジャニーズの存在感が大きくなったのはここ10年くらいのことですよね。2010年代以降は、AKB商法などにより、CDの売り上げと、曲の認知度が大きく乖離(かいり)し、何がヒットしているのか分からなくなった時代です。結果、各ジャンルや世代ごとの枠を意識したかたちで、出演者を選出する傾向が強くなる。スポンサーの意向に左右されない代わりに受信料を払う人々の「支持」を必要とし、その指標としての視聴率を追い求めるNHKは、若い固定支持者を数として連れてくるべくジャニーズの起用を強めたのではないでしょうか。NHKとしては質的な観点からの起用というより量的な側面からの起用ですから、今年の問題で旧ジャニーズの固定支持者が使えなくなるのであれば、別の固定支持者を持つ人やグループを頼ればいい、という発想になってくる。結局は、そこまで大きな影響にはならないのではと思います」
――ここ数年は「旧ジャニーズからの出場者が多い」といった批判も含め、紅白のあり方を根本的に問う声が強まっているように見えました
「すでに紅白は、かつての男女別で対抗する『勝負』という枠組みや、その年1年のヒット曲をその歌手が歌うというコンセプト自体、形骸化しています。根本的な変化を模索するタイミングは過ぎ去り、もはや伝統芸能に近いフェーズに入っているといってもよい。甲子園での高校野球の日程や開催場所を簡単に変えられないような事態と似ています」
「そもそも、紅白が国民的番組でなくなったのは今に始まったことではありません。視聴率的には、1984年に78・1%あったものが、85年に一気に66%まで落ち、そこから滝の水が落ちるように視聴率が下がっていった。その対応として89年には2部制になり、90年代に少し盛り返しますが、2000年代にまた落ちる。つまり80年代中盤の時点で、紅白はそれまでのような『国民の大多数が視聴する番組』ではなくなっていたのです」
テレビに出ないことでカウンター性を表現
――80年代に何が起きていたのですか
「ポピュラー音楽の領域では…
- 【視点】
■それでも紅白は続いていく 「迷走」ではなく「試行錯誤」「模索」だろ 現在の日本の音楽シーン、さらには日本社会の見取り図のような良インタビューである。紅白とは何か。「国民的」とはどういうことか。華麗に読み解いている。今年の締めくくりにふ
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