AIが超えられないバカの壁 養老孟司さん「問題はむしろ人間」

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聞き手・石川智也
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解剖学者養老孟司さんインタビュー

 人類への脅威か福音か。AI(人工知能)を巡る議論がかまびすしい。さすがに冷や水を浴びせたくなってきた。だったらこの人しかいない。人の世を快刀乱麻に解剖してきた養老先生には、データに依存する電子頭脳も、それに浮足立つ自然界の脳みそも、「バカの壁」に囲まれているように見えるようで。

ようろう・たけし 1937年生まれ。東京大学医学部教授を95年に退き、同大名誉教授に。著書に「からだの見方」「唯脳論」「バカの壁」「ものがわかるということ」など。

 ――まるで人間と話しているかのような自然な文章を生成する対話型AI「ChatGPTチャットGPT)」の登場によって、世界中が百家争鳴の様相です。人間の知性を超える汎用(はんよう)AIの実現が近づいた、という声もあります。

 「使ってみましたよ。かなり真っ当なことを書くんだな、と感心しました。でも結局のところ、精巧な道具に過ぎない」

 「認知科学の専門家が『記号接地問題』として説明しています。チャットGPTなどの基盤技術『大規模言語モデル』は、いくら『それらしい』応答をしても、ある言語体系の中の文法やルールに従って、人間の質問に続く可能性の高い文字列を並べているだけ。AIの内部では、一つ一つの単語(記号)は経験や感覚に対応(接地)しているわけではない。要するに、人間の問いの意味と意図を理解していないということです」

 「僕は『もっと地面に張り付け』と言ってきたけど、質量のある物質的世界に、まさしく『接地』していない。身体感覚に裏打ちされていない、宙に浮いた、僕がよく言う『脳化社会』の典型的な技術です。人間の理性は『ああすれば、こうなる』と因果律で考える癖がある。見えているのは、論理や計算で予測可能な世界のみ。逆にコントロールできないものは排除する。それが脳化です。脳の産物である人工物だけで構成した都市がまさにそれです」

オートバイと100メートル競走する無意味

 「大脳の分野の一部の機能と…

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    佐倉統
    (東京大学大学院教授=科学技術社会論)
    2024年1月12日12時0分 投稿
    【視点】

    斜に構えたシニカルな発言はいかにも「養老節」全開といった趣だが、基本的な主旨には賛成だ。人の心の動きと、AIのやっていることとは、かなり違う。一方で、「今の基準で生き物と呼べるかどうかはどうでもいい、デジタル空間で自分のアバターが能力増強し

    …続きを読む
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    遠藤謙
    (エンジニア)
    2024年1月12日21時24分 投稿
    【視点】

    ここで出てくるのはAIの中でも、LLMを用いた生成AIなどのような近年話題になっているいわゆる「弱いAI」の話だ。この延長上に人間のような強いAIが生まれるかどうかは議論が分かれる。明らかに人間の脳の機能と生成AIは仕組みは全く異なり、弱い

    …続きを読む