ひとり断崖へ向かう女性 察したタクシー運転手は「おろしません」

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勝部真一
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 タクシー運転手が女性を乗せたのは今月10日。午後4時47分に大阪方面からの特急くろしおが、JR白浜駅に到着したあとのことだった。

 和歌山県白浜町の明光タクシーに勤務する北本弘さん(72)は行き先をたずねた。

 「三段壁までお願いします」

 小柄で、20代半ばに見えた。もうすぐ日没の時間。ひとりで。荷物は小さなリュックのみ。抱いたのは違和感だった。

 料金を聞かれたので答えると、女性は「よかった4千円は持っている」と返してきた。

 北本さんは、タクシーを走らせながら会話を続けた。

 「なにしに行くの?」

 「ちょっと」

 「泊まるところはあるの?」

 「まだ決めていません」

 「白浜は急に泊まれるところはないよ」

 「かまいません」

 女性はすすり泣きはじめた。

 「何があったの?」…

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    小松理虔
    (地域活動家)
    2023年12月26日10時0分 投稿
    【視点】

    ああ、よかった、すばらしいドライバーがいたもんだと感心しましたが、救われた命の裏には、気づかれずに断たれてしまった命、救われなかった命もあったのだろうと思うと胸を撫で下ろしてもいられません。私ももう少し、隣人に関心を持ち、表情や息づかいに敏

    …続きを読む
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    大川千寿
    (神奈川大学法学部教授)
    2023年12月27日11時34分 投稿
    【視点】

    記事にもあるように、地域での連携で日頃からいのちを守るための意識を高くお持ちだったこともあるのでしょうが、一つひとつのことばや仕草から伝わる運転手さんの優しさと冷静さこそが、絶望のうちにあったこの女性のいのちを救ったのでしょう。 年末

    …続きを読む