「台湾の悲哀」を突破した蔡英文政権 元最側近が語った意外な戦略

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聞き手・台北=石田耕一郎

 米中が影響力を争う台湾で、来年1月に蔡英文(ツァイインウェン)総統の後継を決める総統選がある。かつて「アジアの孤児」と呼ばれた独裁体制の島はいま、熱い民主主義と多様性を誇る地になった。蔡政権の中枢で政策立案に関わり、総統のスピーチライターでもあった姚人多(ヤオレントゥオ)さんに、台湾社会の変化と選挙の行方を聞いた。

 ――民進党が野党に転落した2008年、蔡氏を党主席選に担ぎ出すなど、最側近として蔡氏を支えました。その蔡政権の実績が総統選で問われています。

 「蔡氏はよく言えば慎重、厳しい言い方をすれば判断を下すのが遅いリーダーです。ただ、対外関係では、慎重さが生きました。両岸(中台)関係もそうです。台湾は小さく、残念ながら中国との関係を自ら左右できる力はありません。『台湾の悲哀』です。だからこそ、蔡氏は中国を過度に刺激しない方針を徹底しました」

 ――具体的にどんな方法を。

 「まず16年の総統就任時の演説で、中国が求める『中台は一つ』という考え方を完全には否定せず、中国のメンツを保ちました。任期中に台湾の法的な独立を図る行動をとらない、というメッセージを込めたのです」

 「民進党は党綱領で台湾の独立を掲げています。支持者から猛反発を受ける恐れもあったのに、中国に『併合』される危険を取り除くことを最優先しました」

 ――スピーチライターとして慎重さを指示されましたか。

 「中国で1989年に起きた天安門事件の日(6月4日)に出す総統声明は、毎年、最も頭が痛い仕事でした。中国の当時の対応を厳しく非難しなければならない一方、中国を過度に刺激することなく、台湾の民主主義を対外的に誇る内容が求められたためです」

中国硬化でも国際社会で存在感

 ――ただ、中国はこれまで蔡政権との対話に応じていません。

 「中国も当初は、政府系の学…

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    阿古智子
    (東京大学大学院総合文化研究科教授)
    2023年12月22日6時0分 投稿
    【視点】

    若い世代が、台湾の存在や民主主義に対する自信を深め、「誰が総統になっても台湾が倒れることはない」と考えているという分析、私にとっても、さらに深めてみたいポイントです。ひまわり世代(ひまわり学生運動を直接経験した世代)とそれ以降の世代に民主主

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    佐倉統
    (実践女子大学教授=科学技術社会論)
    2023年12月22日6時0分 投稿
    【視点】

    なるほど、蔡英文総統の横にはこのような優れたブレインがいたのだなと改めて納得。9月に台湾生活を始めたとき、まっ先にこちらの学生さんたちに聞いたのが、台湾の同性婚法についだった。彼ら彼女らの評価は、ここで姚氏が分析しているとおりのものだった。

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