19歳で急逝、アイヌの女性が残した言葉 1世紀の時を越えて映画に
口づてに受け継がれてきたアイヌ民族の叙事詩「カムイユーカラ」の出版に力を尽くした女性をモデルにした映画「カムイのうた」が来年1月、一般公開される。女性は19歳で急逝。その生きざまが、1世紀の時を越えて映像化された。
映画の主な舞台は大正期の北海道。アイヌの主人公テルは勉強ができたために高等女学校を受験するも、出自から不合格に。アイヌで初めて入学した女子職業学校でも、土人(どじん)とさげすまれた。
ある日、東京から来たアイヌ語研究者に勧められ、ユーカラを記録するようになった。日本語への翻訳の能力を見いだされたテルは、本格的な出版に向け東京へ――。
テルのモデルは、知里幸恵(ちりゆきえ)。アイヌの神が語る「ユーカラ」の13編について、ローマ字でアイヌ語の発音を起こし、日本語に訳した。
知里は上京4カ月後の1922(大正11)年9月、本の校了直後に心臓まひで急逝。翌年出版された「アイヌ神謡集」は今年で刊行から100年だ。固有の文字を持たないアイヌの伝承を、アイヌ自身が初めて活字にしたものとされ、岩波文庫で読み継がれている。
知里は序文で、社会の変化に「敗残」するアイヌの状況を「亡(ほろ)びゆくもの……それは今の私たちの名」と憂え、文化、言葉の消失を危ぶんだ。「アイヌを知って」との思いもにじませていた。
「まさに、あの序文を映画にした」。監督、脚本を担った菅原浩志さん(68)は、そう話す。
映画化のきっかけは、菅原さんが北海道旭川市の川村カ子(ネ)トアイヌ記念館の故・川村兼一館長と出会った数年前にさかのぼる。
アイヌの儀式のようすを撮影する仕事だった。ただ、その前に、どうしても心にひっかかることがあった。
近年、明治末期の北海道を舞…
- 【視点】
アイヌの人たちを日本国民に同化させることを目的に明治32(1899)年に制定された「北海道旧土人保護法」は、「土人」の名が示す通り、アイヌを貶め、差別構造を作り出し、固定化させるものでした。同法は1997年に廃止されるまで、実に100年近く
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