芸備線の存廃、納得できる協議プロセスを JR西と自治体に警戒感

西本秀
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 【広島】備中神代駅(岡山県新見市)から乗り込んだワンマン車両は、意外なことに、座りきれないほどのにぎわいだった。

 JR西日本が10月、一部区間の存廃などを話し合う「再構築協議会」の設置を国に要請した芸備線。取材を担当しているものの、協議対象となる区間(備中神代―備後庄原)の岡山側から乗る機会がこれまでなく、先日、出かけてきた。

 平日の昼間、1両編成に40人近くが乗っていた。乗客に声をかけると、多くは鉄道ファンで、地元住民は少ない。松江市から訪れた20代の男性は「廃線になるかもしれず、乗らなくちゃと来ました」。

 早くも「駆け込み需要」のようだ。こうした潜在力を、ローカル線の恒常的な利用促進になんとか生かせないものかと思うが、容易ではないのだろう。

 対象区間の一部では今年3月、落石による脱線事故が起き、4カ月余り運転を見合わせた。JR西管内の駅で2番目に標高の高い道後山駅(611メートル)も抱えている。

 私が乗った日は小雨がぱらつく天気だった。ちょうど点検作業と重なり、運転席の横に保線の担当者が同乗し、軌道の状態を確認してチェックシートに書き込んでいた。

 車窓を眺めながら、今年を振り返る。JR西、広島県庄原市など沿線の自治体、そして国土交通省を取材しながら感じたのは、当事者間にある警戒感や、意思疎通の不十分さだった。

 JR西には自治体が「反対ありき」に映り、自治体にはJR西が「廃線ありき」に映る。自治体は国に頼りつつも、廃線も存続も前提としないとされる「再構築」というあいまいな言葉に不安を感じている。

 それぞれの取材先で「向こうは、どう考えているんだろう」と何度か聞かれたことがあった。再構築協への参加をめぐり、自治体側が回答を一度延期し、要望や条件を付け加える一幕もあった。法改正で立ち上がったばかりの制度のため、どう進めていくか、互いに手探りなのだ。

 来年から存廃協議が始まる。どんな結論を出すにしろ、互いが納得できるプロセスであってほしい。そのためには、警戒感を超え、腹を割って幅広く話し合うしかない。全国初の試みを注目したい。西本秀

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