「窒息作戦」と追い出しに抗うガザの人々 慟哭の問いの先にあるもの

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憲法学者・清末愛砂=寄稿

問われているのは誰か-ガザの破壊を止めるために【後編】

子どもたちの支援を通してガザと長年かかわってきた憲法学者・清末愛砂さんは、イスラエル軍の激しい攻撃を前に、子どもたちの安全を祈っていると言います。後編では、現地での交流で知ったパレスチナ問題の奥底にあるものを語ります。

 イスラエル軍によるガザへの攻撃が始まり、早くも2カ月余りが経過した。

 この間の被害先を全体的に見直すと、無差別攻撃としての側面だけでなく、ライフラインを含む生活基盤(病院、学校、家屋、水関連の設備や施設、モスクや教会など)の大規模な破壊(家屋だけでも、パレスチナの公共事業・住宅省によると12月3日現在で全壊は5万2千軒以上、部分的損壊は25万3千軒以上であり、60%以上の家屋が全壊または部分的損壊の被害を受けている)や、パレスチナ人の存在を記録・証拠づける施設(役所、大学、公文書館など)の破壊の側面が浮き上がってくる。

 これを分かりやすく書くと、これ以上、ガザがパレスチナ人の居場所にならないように消してしまうやり方、それをパレスチナ人にわざわざ誇示するやり方がとられている、ということである。

停戦実現しても生活不可能な破壊が狙いか

 もっとも、攻撃開始から比較的早い段階で、破壊と被害の規模が非常に大きいことから、このままの勢いで進むと、たとえ停戦が実現しても、ガザ内で生活を続けること自体を不可能にすることが目指されているのではないか、という疑いを抱いてはいた。だからこそ、11月に緊急出版された『平和に生きる権利は国境を超える―パレスチナとアフガニスタンにかかわって』(猫塚義夫・清末愛砂、あけび書房)の終章で、「このままでは、人が住むことが著しく困難な状態にまでガザが破壊されていくことに限りなく近づいていくだけです。それが一体何を意味するのか。私は今、そのことを強く考えています」(176―177ページ)と、注意喚起の意味を含めて記したのである。

 この状態に追い込むことで、「保護」や「避難」名目のガザからの追放の道が、国際社会を巻き込みながら作られていくことを、私は恐れていた(国連の推定によると12月13日現在、ガザ人口の85%に相当する193万人がすでにガザ内で避難民となっている)。

 また、その時点で私の頭の中には、ジェノサイド条約や国際刑事裁判所ローマ規程が規定する、集団の破壊を意図することを要件とする国際法上の「ジェノサイド」(その意図の下で行われる行為は集団の構成員の殺害だけを指すわけではない。身体の破壊をもたらすことを意図する生活条件を故意に課すことなども含まれる)の可能性がちらついており、強く懸念していた。その意図について、イスラエル・ガラント国防相の10月9日の発言(「人間の面をした獣と戦っている」)などから読みとれたからである。現在、その懸念はパレスチナ人を追放対象としてきた歴史的経緯を含めて、より一層の確信に近づいている。

 なお、攻撃による死傷者について考えるときに看過できない点は、パレスチナ人の家族の居住形態の特徴である。息子たちが結婚をすると、父母の住居の上階部に息子夫婦の居住空間がつくられることが多い。息子夫婦とその子どもたちが2階や3階に住んでいる住居が空爆されると、一族の命が同時に失われることになりかねない。これは、一族の「根絶やし」を意味する。

 加えてこの攻撃における異常…

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