進むべき道が見えなくなった 佐伯啓思さんが考える日本の現在地

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佐伯啓思の異論のススメ・スペシャル

 山本七平(1921~91)といえば、イザヤ・ベンダサン名義で発表された「日本人とユダヤ人」や「『空気』の研究」などで知られた評論家である。戦時中の過酷な軍隊経験をもつ山本にとって、あの無謀な戦争に日本を駆り立てたものは何だったのか。その問いが評論活動の原点であった。

 もっとも、戦争体験を自らの思想の基軸に据えたといえば、丸山真男らのいわゆる進歩派知識人の名前が思いうかぶ。彼らは、日本の戦争原因を、天皇制国家という日本社会の後進性に求め、それゆえ、欧米を手本とした民主的な市民社会の建設に戦後日本の希望を託した。これに対して、山本は、天皇主権を排して、戦後の民主的な社会になっても問題は何も解決しない、という。

 この両者の違いをもたらしたものは何か。実は、山本にとって真の問題は、ただ戦争体験というだけではなく、戦前と戦後で果たして何かが変わったのか、という点にあった。端的にいえば、戦前には「天皇陛下万歳、鬼畜米英」を叫んでいた日本人が、1945年8月15日を境に「マッカーサー万歳、民主主義万歳」へと豹変(ひょうへん)したのはなぜか、ということである。

 この豹変を「主体性の欠如」…

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