広島市長、新任職員の研修資料に教育勅語使う 「よい部分あった」

魚住あかり 黒田陸離
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 広島市の新規採用職員研修で松井一実市長が、「心の持ち方」などとして戦前・戦中の「教育勅語」の一部を研修資料に引用していたことが11日、市への取材でわかった。教育勅語は戦後、日本国憲法と相いれないとして国会で排除・失効が決議されている。

 2022年4月の研修の資料では、「生きていく上での心の持ち方」と題した項目で「我々の先輩が作り上げたもので良いものはしっかりと受け止め、また、後輩に繫ぐ事が重要」と記述。教育勅語の一節として「爾(なんじ)臣民 兄弟(けいてい)に 友に 博愛 衆に及ぼし 学を修め 業を習い 知能を啓発し 進んで公益を広め 世務(せいむ)を開き」との文言を英訳とともに掲載している。

 市によると、松井氏は研修資料への引用を市長に就任した翌年の12年から毎年続けている。23年の研修でも前年と同じ部分を資料として使い、講話をしたという。

 松井氏は朝日新聞の取材に対し、市研修センターを通じて「教育勅語を再評価すべきとは考えていないが、その中に評価してもよい部分があったという事実を知っておくことは大切だ。今後も使用を続けることにしております」とのコメントを出した。

 「全体を画一的に捉えて良い悪いを判断するのではなく、中身をよく見て多面的に捉えることが重要であることを説明する中で、一例として教育勅語を紹介した」とも説明している。

 名古屋大の中嶋哲彦名誉教授(教育行政学)は、松井市長が引用した文言は「天皇が臣民(国民)に徳目を押しつける内容」と指摘。戦前の家父長制を強調する箇所だとし、「戦後の日本国憲法の下では完全に否定されたもの。職員研修に教育勅語を使うことは、どう言い訳しても今日には全く通じない。職員にはむしろ『これは否定されたもの』と説明する方が自然だ」と話した。

 また、中嶋氏は「10年以上もの間、内部から指摘が出なかったことも驚きだ」とも述べた。(魚住あかり、黒田陸離)

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    辻田真佐憲
    (評論家・近現代史研究者)
    2023年12月11日21時59分 投稿
    【視点】

    教育勅語は、明治憲法における天皇と臣民の上下関係を前提とした文章です(起草に中心的に携わった人物も同じです)。部分的に切り出せば現在に通じる点もあるのかもしれませんが、それならば別の文章を使えばいいだけですし、そもそも教育勅語の根本部分(国

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