2千人の「消えた赤ちゃん」がきっかけ 韓国で内密出産を法制化

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聞き手・大貫聡子
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 女性が身元を明かさなくても病院で出産できる「保護出産」が韓国で法制化されました。10月に「危機妊娠および保護出産支援と子の保護に関する特別法」が成立、来年7月から施行される予定です。日本では熊本市の慈恵病院が病院関係者にのみ身元を明かす「内密出産」に取り組んでいますが、法制化への議論は進んでいません。なぜ韓国では実現したのでしょうか。韓国のベビーボックスや内密出産制度に詳しい姜恩和(カンウナ)・目白大教授(社会福祉学)に聞きました。

――なぜこのタイミングだったのでしょうか。

 背景には「消えた赤ちゃん」の問題があります。韓国も日本と同じく、分娩(ぶんべん)の事実をもって母親とされ、親が出生届を出すと国民と認知されます。ところが、行政機関の調査で、病院で生まれたことは確認されているが出生届が出ていない、所在のわからない赤ちゃんが2015年からの8年間で2千人以上にのぼることが明らかになりました。

 こうした事態を防ぐため、政府は今年6月、家族関係の登録に関する法律を改正し「出生通報制」を成立させました。医療機関が出生から14日以内に母親の名前と住民登録番号、子の性別、出生年月日などを健康保険審査評価院に提出しなければなりません。健康保険審査評価院はその事実を管轄の自治体に通報し、自治体は出生届を確認します。1カ月が経っても出生届が出されなければ、自治体が裁判所の判断を経て職権で家族関係登録簿に出生の事実を記録しなければなりません。

妊娠知られたくない女性の安全は…

 一方で問題視されたのが、誰にも妊娠していることを知られたくない女性はどうするのかということです。医療機関を避け、危険性が高い孤立出産に追い込まれてしまうのではないか。女性と子どもの命を守るため、身元を明かさなくても安全に出産ができる保護出産制の導入が必要ではないかという議論が起き、導入が決まったのです。

――フランスでは身元を誰にも明かさずに出産できる「匿名出産」を、ドイツでは特定の機関(妊娠相談所)にのみ身元を明かして病院で出産する内密出産を導入しています。韓国の保護出産はどういう制度ですか?

 ドイツの内密出産を参考にし…

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この記事を書いた人
大貫聡子
くらし報道部
専門・関心分野
ジェンダーと司法、韓国、マイノリティー