阿波踊りの情報発信拠点を建設 徳島の出版社「猿楽社」
阿波踊りの情報誌を発行する出版社「猿楽社」(徳島市)が今秋、阿波踊りの魅力を海外へPRする拠点施設「AWAODORI(アワオドリ) PRESS(プレス) STUDIO(スタジオ)」を造った。代表の南和秀さん(55)は「徳島と海外、踊り子と阿波踊りファン。それぞれをつなぐ場にしたい」と意気込む。
白色が基調の木造平屋75平方メートル。3分の1が会社スペースで、残りに撮影スタジオ、ライブラリー、ギャラリーを設けた。ファサード(正面外観)に県産杉ルーバー(羽根板)を配置。長短2種類の細い板を組み合わせることで、阿波踊り独特のおはやし「ぞめき」の2拍子を表現している。
南さんは出版社勤務を経て阿波踊り専門のフリーライターとして活躍。2015年に会社を立ち上げたのは、東京五輪・パラリンピックで日本文化が海外から注目されると考え、海外発信を見据えてのことだ。
17年には訪日外国人らに英語やフランス語、中国語で阿波踊りを紹介するフリーペーパー「AWAODORI PRESS」を発行。首都圏の旅行会社や海外での催しなどで配った。18年には第2号も出した。
「それ以前にフランスで阿波踊りを披露する催しがあった際、観覧した現地の人から『あの編み笠って何』『げたって何』といった声が上がっていた。彼らは単なるパフォーマンスとしてではなく、そこに込められた文化や歴史、うんちくも知ろうとする。そこに応えなければと思った」
フリーペーパーは好評だったが南さんは満足せず、21年には世界の人たちと阿波踊りを楽しむオンラインイベントも企画。コロナ禍で人の行き来が制限される中、ウェブ会議サービスを利用して14カ国の約200人を集めた。
その後も「世界に向けた情報発信を強めたい」と考え続け、思い立ったのが今回の常設施設だった。
ライブラリーやスタジオの活用はこれからだが、ギャラリーでは10月2日のオープンに合わせて阿波踊りのパネル展を開き、その後は三味線の演奏会も開催。SNSで国内外へ発信した。11月上旬には「秋の阿波おどり」(徳島県など主催)の行事「世界阿波おどりコンテスト」に米国から参加した人たちが、施設まで足を延ばしてくれた。
海外発信と同様に重要だとするのが「知の集積」だ。「コロナ禍で中断されていた海外交流が盛んになるにつれ、阿波踊りの海外公演も増えていくだろう。その際、踊り子たちが現地の人に歴史・文化を正しく伝えられるよう、ここを踊り子たちが足元を見つめ直す『学びの場』としていきたい」ともくろんでいる。30年近い取材経験の中で知り合った研究者や地元の「長老」を講師に招くつもりだ。
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〈猿楽社〉2015年11月設立。好評のガイドブック「阿波踊り本。」(06年)、「阿波踊り本。Ⅱ」(15年)の続編を来年にも発行予定。発行物の詳細はホームページ(http://www.sarugakusha.jp/)で。新設の「STUDIO」は、会社として催しを企画した際などに一般公開する方針…