豪鉱山の砂を投入した白良浜 白さと広さが戻っても鳴かない砂

勝部真一
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 オーストラリアからの砂を運び込むことで、戦後の高度成長期に失われた白さと広さが戻った白良浜和歌山県白浜町)。ただ、「かつては、踏むと音がする『鳴き砂』だった」と残念がる地元のお年寄りが少なくない。どうして砂は鳴かなくなったのだろうか。

 「昔は冬場に砂浜を歩くと、キュッキュッと音がした」。海岸近くで生まれ育った鈴木博之さん(87)は懐かしむ。

 鈴木さんの弟で元高校教師の昌(まさる)さんは、白浜町文化財保護審議会委員を務めていた。2014年にまとめた冊子「旧白良浜の消長と再生」でも、「鳴き砂」について触れている。

 それによると、「日本三大鳴き砂」に数えられ、国の天然記念物に指定されている京都府京丹後市の琴引浜では、砂の大半は0・3~0・8ミリだった。一方の白良浜は同じ大きさは4割程度で、0・15ミリ以下の微粉も含まれていた。そこで、白良浜の砂を同様の配分にしたが、それでも鳴らず、十分に水洗いしたところ音が出た、としている。

 周辺の開発などでやせてしまった白良浜は、1989年から2010年まで、オーストラリア西南部の「フリーマントル鉱山」の砂を投入して、美しい浜を復活させた。

 砂の違いが原因なのだろうか。砂が鳴く理由を知ろうと琴引浜近くの「琴引浜鳴き砂文化館」(京丹後市)を訪ねた。

 「とてもデリケートな条件がそろって、音が鳴ります」と田茂井秀明館長。圧力を加えると振動し、音が発生する石英が60%以上含まれていることが条件とされる。ただ、少しでも汚れると鳴かなくなる。日本海の激しい波や閉鎖性の強い内湾の地形によって、常に洗われた砂が浜に供給されていることが、鳴り続けている理由という。

 同館によると、かつては全国各地に鳴き砂の海岸はあったが、現在では30カ所ほどという。

 「白良浜が昔は鳴き砂の海岸だったことは聞いている」と田茂井館長。そのうえで、こう推測する。「リゾート地としての開発で地形なども変わってしまったのが原因かもしれない」

 海岸の形状は大きな影響を与えるようだ。島根県大田市の琴ケ浜では、50年ほど前に砂の流出を防ごうと離岸堤工事を始めたが、ほとんど鳴かなくなるまで音質が悪化。その後、1989年から人工リーフ(潜堤)に代替する工事をしたことで、波による砂の洗浄作用が復活したという。

 白良浜はどうか。

 冊子「旧白良浜の消長と再生」では、かつての海岸の復活は困難だと記されてる。「自然砂丘形成に必要な要素が失われてしまった」とした上で、遠浅の海岸には戻らないと指摘する。その理由の一つが環境整備事業の中で実施された人工岬や海底、岸壁の平準化などをあげ、湾流の変化などで海底の削剝(さくはく)が進んだとする。

 遠浅だった頃の白良浜を懐かしむ声がある。子どものころ、白良浜でよく泳いだという70代の男性も「以前は海に入っていっても、なかなかひざから上まで水につかることはなかった。いまは強い風が吹くと波が高くなって、すぐに遊泳禁止になることも少なくない」と話す。

 鳴き砂や遠浅などかつての姿は変わってしまったが、毎年多くの観光客が訪れる白良浜。今季からは海水浴シーズンだけでなく、冬の海岸を光と音楽で彩るイベントを始めるなど、新たな魅力を発信している。

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