第7回若手医師の7人に1人「自殺考える」 長時間労働やパワハラが影響

有料記事

聞き手 編集委員・辻外記子

 全国医師ユニオンが大学病院の医師2割を含む勤務医を対象に行った調査(有効回答約7千人)では、過酷な労働実態が浮かび上がりました。「過重労働とパワハラは表裏一体」「日本の医師モデルは専業主婦を妻に持つ男性医師のモデル」。植山直人代表はこう語ります。

 ――1カ月の当直が6回以上の人が9・3%いて、1カ月の休み0日の人が5・1%いるなど深刻な結果でした。

 労務管理ができていない病院がまだ多くあります。特に大学病院には博士号や専門医資格をとりたいと願う人が多くいます。それが弱みとなって、無理を言われても従わざるをえない。労働法の知識や問題意識もない管理者も多く、悪いことをしていると思っていないのです。

 今の大学病院の上層部は、体力的に恵まれ生き残ってきた人たちばかりです。過労死する医師や、メンタルを病んで去っていく人たちが見えていません。そのため、人権や労働法を守ろうという意識がないのです。

 ――給与が支払われない「無給医」が数年前に問題となりましたが、なくなったのでしょうか。

 社会問題になった後、さすがに時給0円、つまり無給で働く医師が存在するとは聞きません。しかし、最低賃金を守れば違法ではないとみている大学もあるようです。

 都内のある大学病院では、報道があった直後に時給0円が時給2500円ほどになったけれど、半年ほどしたら時給1200円ほどに下がったと聞きました。

 最低賃金に近い額しか支払っていない病院は、いまだにあります。大学からほとんどお金がもらえないため、外の病院でアルバイトをしないと生活ができない。そのため、研究をする時間がない。そんな悪循環が起きています。

 ――労務管理ができていないということでしょうか。

 最新の調査でも、「労働時間の管理が行われていない」と答えたのが10・9%、「時間外手当の支払いはない」が12・8%といった状況です。

 実態は労働なのに、病院独自のルールを作り、大学側は「自己研鑽(けんさん)だ」と主張する。「こんなに働かされて違法ではないか」と医師が言っても、労働時間とカウントされないと始まりません。

 一方で、労働時間に関するパワハラを受けたという声も多く届いています。過重労働とパワハラは表裏一体なのです。

 ――どういうことでしょう。

 多くの医師は、「当直の数や残業はもう少し少ない方がいい」「休みはもう少し多いといい」と思っているわけです。しかし、言うと怒られる、もしくは不利益を被ってしまう。

 「それ残業なの? 自分のためだろう」と、自己研鑽とみなすべきだという趣旨のことを上の医師から言われることもあります。もう、返す言葉もないというわけです。

 自身が受けたパワハラに労働問題関係のものはあったかを尋ねると、「残業の申告時間を減らすよう指示された」と答えた医師が約470人いました。

 ――長時間労働やパワハラが重なって精神的に病むこともあるのでしょうか。

 今回初めて「自殺」についても聞きました。「日常的(週や1日に数回)に、死や自殺について考える」と答えた医師が6・9%。この割合は若い世代ほど高く、20代では14%にものぼりました。長時間労働や休みの少なさ、パワハラが関連している可能性があります。

 ――医師として働き続ける上で感じる悩みについて、「プライベートな時間がない」「家事と仕事の両立が困難」といった答えが多かったのが印象的でした。

 日本の勤務医モデルというの…

この記事は有料記事です。残り1138文字有料会員になると続きをお読みいただけます。

※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません

この記事を書いた人
辻外記子
くらし科学医療部長代理
専門・関心分野
医療・ケア、医学、科学
  • commentatorHeader
    小熊英二
    (歴史社会学者)
    2023年12月10日8時0分 投稿
    【視点】

    「医療のトリレンマ」と呼ばれる質・アクセス・費用の三つが、日本では何とか維持されている。それは医療従事者の長時間労働によって可能になっている。 質の高い医療を、誰でもすぐアクセス可能にするようにすると、費用が高くなる。誰でもアクセス可能で

    …続きを読む