リベラリズムは「終わり」なのか 弱点見つめ、暴力の連鎖へ抵抗を
記者解説 国際報道部次長・青山直篤
記事の末尾で、朝日地球会議2023でオンライン登壇したフランシス・フクヤマ氏のインタビュー動画を全編閲覧できます
1989年にベルリンの壁が崩壊し、冷戦が終わった。91年には、共産主義の理念と軍事力で20世紀を大きく動かしたソ連が瓦解(がかい)する。米国の覇権のもとで国際秩序が再構築された。西側諸国の価値観の土台となっていたリベラリズム(自由主義)が広まり、安定した時代が続くと期待された。
今の国際情勢を見ると、それが甘い見通しだったことがわかる。権威主義的な中国が台頭し、米国と対立。2022年2月にはロシアがウクライナに侵攻した。今年10月には、イスラム組織ハマスとイスラエルが衝突し、パレスチナで殺戮(さつりく)と人道危機が起きている。
89年のベルリンの壁崩壊の数カ月前、リベラリズムの勝利を論じたのが米政治学者のフランシス・フクヤマ氏だった。論文を基にした『歴史の終わり』(92年)は世界的なベストセラーになった。
フクヤマ氏のいう「リベラルな体制」は、言論や信仰、政治参加など一定の人権を保障し、政府の権力を制限するものだ。こうした体制下で自由を重んじ、民主主義との調和を図ろうとする歩みは勢いを失っているようにもみえる。
ロシアのプーチン大統領は19年6月、英紙フィナンシャル・タイムズに「リベラルの理念は時代遅れ」と語った。米国などの民主主義国でも、トランプ前大統領のような「反リベラル」が人気だ。リベラリズムは、格差や不公正を覆い隠す現状維持のイデオロギーとして左派からも批判されている。
フクヤマ氏はこの状況を分析し、近著『リベラリズムへの不満』にまとめた。今秋、米スタンフォード大学で10年ぶりに会うと、自らの議論について内省を重ねてきたことがうかがわれた。
ポイント
自由や寛容を掲げるリベラリズムが、国際情勢が転機を迎えるなか揺らいでいる。異なる意見を認めつつ一定の価値観を共有する、開かれた共同体が求められる。自由は本来は「自律」の意味に近く、日本にとっての意義を問い直す必要がある。
私たちは「歴史の終わりの終…