消えた「洗濯物折りたたみ機」金も人も失った経営者、地獄のりこえて
経済インサイド
長い沈黙を経て目の前に現れた男は、まるで何事もなかったかのように「お久しぶりです」と声をかけてきた。力強いまなざしから、身ぶり手ぶりを交え、論理的に話す姿は変わっていない。ただ、5年前に初めて会った時は、表情に疲れがにじんでいた。
東京・大手町にある金融系ベンチャー企業向けのフリースペース「FINOLAB(フィノラボ)」。いまは、そこを拠点に人工知能(AI)を使ったフィンテックを手がける「ジーフィット」共同代表という肩書を持つ。従業員20人ほどの小さな会社だ。
かつては、「夢の家電」の開発に取り組んだ経営者として知られた。2010年代、世界初の洗濯物自動折りたたみ機「ランドロイド」を開発し、世に送り出すはずだった。
大型冷蔵庫ほどの箱形の機械に衣類を放り込むと、AIとカメラが素材や形状、大きさなどを判別し、3本のロボットアームでつかんで折りたたむ。
開発したその人物こそ阪根信一(52)だ。40歳の時に創業した「セブン・ドリーマーズ・ラボラトリーズ」には、大手メーカーや投資ファンドから出資希望が殺到した。集めたお金は100億円以上。「ベンチャー界の寵児(ちょうじ)」と呼ばれた。
甲南大を卒業後、米デラウェア大の大学院でプログラミングを学び、AI技術の基礎となるアルゴリズムの知識を習得した。00年に父親が創業したベンチャーに入社。ある時、洗濯物をたたんでいた妻に「どんな家電があったら買いたい?」と尋ねると、「この作業」と返ってきたことがきっかけで、開発が始まった。
15年、家電見本市「シーテック」にランドロイドの試作機を展示して鮮烈デビューを果たすと、16年パナソニックと大和ハウス工業と製造販売を手がける新会社を設立。17年5月には秋に予定価格185万円(税別)で発売することを披露した。
多くのメディアにもてはやされたこの時期が絶頂だった。
暗雲が垂れ込めたのは、半年後。ランドロイドの発売を1年半も延期すると発表せざるを得なくなったのだ。
原因は、ユニクロの機能性肌着「エアリズム」だった。
どんな衣類でもきれいにたた…
- 【視点】
ランドロイドの破産は当時、スタートアップ業界に大きな衝撃を与えた。多くの出資を集め、メディアや展示会で注目を集めてきたライジングスターが跡形もなく散った。当時、世の中に現状のプロダクトだけでも出して、さらなる出資を募ることができなかったのか
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