シカが招くブナ林の「負のスパイラル」 根がむき出しになった結果…

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編集委員・佐々木英輔

 シカが森林の下草を食べつくした結果、土壌が失われ、ブナの成長が鈍る。すると落ち葉が減り、土中の微生物も悪いほうに変化、さらなるブナの衰退を招いていく――。

 そんな「負のスパイラル」が生じる可能性が、九州南部の山地を対象にした研究で見えてきた。調査した研究者は「影響を最小化する対策が必要」と指摘している。

 研究対象になったのは、宮崎県椎葉村にある九州大宮崎演習林と、熊本県あさぎり町の白髪岳。九大の片山歩美助教(森林科学)らが10月、岡山大や宮崎大の研究者らとともに2本の論文を発表した。

 九州南部は、ブナの西限、南限にあたる。演習林がある三方岳では、かつてブナの下にササ(スズタケ)が生い茂っていたが、1980年代からニホンジカによる食害が進み、2003年までに消滅したという。

 地面があらわになり、ブナの根がむき出しになったり、浮き上がった状態になったりしたところも少なくない。

 片山さんらは、山頂付近のブナ12本について、各方向の根が露出した高さを測って、土壌が失われた度合いを指標化。幹の太り方から成長の量を、回収した落ち葉から葉の生産量を見積もり、関係を調べた。

 すると、根が露出しているほど、幹の成長量や葉の生産量が低い傾向がみられた。

 幹の年輪から時期ごとの成長量を調べると、成長が鈍り始めた時期の平均は97年前後で、シカが増えて下層の植生が失われた時期とよく合っていた。

 幹の試料の分析からは、水分不足にさらされた可能性もうかがえる。根が露出して細かな根が失われたことで水分を吸収しにくくなり、成長に影響した可能性があるという。

 話はここで終わらない。

 成長が鈍り、落ち葉の量が減ることは、土壌侵食にとっても意味を持つ。

 地面を覆う落ち葉の層は、土…

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