木の実を食べていた男性 北海道の牧場で起きた「奴隷労働」の実態は

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石垣明真 上保晃平

 黄色く色づく木々が並んだ道端で、その男性は1人、ヤマブドウのような木の実を食べていた。

 北海道恵庭市の市街地から南へ数キロ。ナラやシラカバの林の合間に、平野や牧草地が広がる。15年ほど前、そこで佐藤さん(40代男性・仮名)は男性に声をかけた。

 「こんにちは」

 以前、近くの牧場から手を振ってくれた人かと思い、尋ねた。

 「そこの牧場の人ですよね?」

 「そうです」

 「どこに住んでるんですか?」

 「あそこの小屋で寝てるよ」

 男性の身長は165センチほど。灰色の上着に黒っぽいズボンをはいていた。年上のようで、歯がほとんど無いように見えた。

 「……ご飯とかちゃんと食べてます?」

 「あんまりまともなものは出てない」

 男性は、近くの「遠藤牧場」に住み込みで働いていた。男性ら知的障害のある60代の3人は今年8月、この牧場で長年「奴隷労働」をさせられていたとして、経営者家族と恵庭市に計約9400万円の損害賠償を求め、札幌地裁に提訴した。

 一方、経営者家族は取材に「虐待はしていない」と否定している。

 3人と長く交流のあった佐藤さんが、仮名を条件に朝日新聞の取材に応じた。その証言から、3人の置かれた境遇を構成する。

 佐藤さんは、男性と初めて会話した翌年、アルバイトを頼もうと遠藤牧場を訪ねた。男性自身が「やれることがあったら声をかけて」と話していたからだ。

 経営者の遠藤昭雄氏(故人)に持ちかけると、強い口調で返された。

 「こいつらは何言っても理解できない。相手にするだけ無駄だよ。障害者なんだから」

 その後も、聞く耳を持ってもらえなかった。

 心配になった佐藤さんは月に2~3回、こっそりと食料の差し入れを始めた。

 実際に3人の様子を見に行くと、牧場から与えられていた1回の食事は、パン1個やカップラーメン1杯などだった。昼食と夕食をプラスチック容器に入れてまとめて渡されることも多かったが、部屋には冷蔵庫はなかった。

外から施錠された部屋に、トイレは無かった

 3人が住むのは、遠藤家が住む母屋とは別のプレハブ小屋。それぞれが個室で暮らしていた。佐藤さんはそのうち、1人の部屋に夜、外から鍵がかけられていることに気づいた。

 最初に話しかけた男性に聞く…

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