地区は帰還困難区域 明治から続く踊りを震災後、初披露 福島・大熊

滝口信之
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 東京電力福島第一原発事故の後、帰還困難区域に指定された福島県大熊町長者原地区の塞(さい)神社で18日、明治時代から続くとされる「長者原じゃんがら念仏太鼓踊り」が震災後初めて披露された。

 「カン、カン、カン」。鉦(かね)の音が響くと、続いて太鼓の音が鳴り、鉦を持つ男性3人や、笠をかぶった女性3人が音色に合わせて踊り始めた。約10分の踊りが終わると、集まった地元住民からは大きな拍手が送られた。13年ぶりに踊ったという渡辺史子(ちかこ)さん(60)は「踊りを再開できると思っていなかった。踊ることができて感無量」と笑顔を浮かべた。

 この踊りは明治時代に現在のいわき市から伝わったとされ、町の無形民俗文化財に指定されている。毎年8月13日に新盆を迎えた家々をめぐり、翌14日に塞神社に奉納されていた。

 原発事故で、同地区は帰還困難区域に指定され、うち半分程度は県内の除染で出た土を運び込む中間貯蔵施設となった。そのため、念仏踊りも休止を余儀なくされた。

 塞神社も老朽化が進んだ。「先祖が苦労して作った地区。このまま地区がなくなっては先祖に申し訳ない」と区長を務める山口三四(みつよし)さん(79)が社殿の再建を2019年に提案。神社は今年8月に再建工事が完了した。

 今回は完成を祝うために踊りが奉納された。踊り手は山口さんが避難している住民を訪ね、依頼した。いわき市の公民館などを借りて3カ月練習を重ねた。鉦や太鼓、笠は震災前から使っていたものだ。

 震災前は踊りは多いときには40人程度で舞ったが、今回は約10人だった。山口さんは「今までで一番規模が小さい踊りだったが、一番良かった」と話す。「地区だけで踊りを続けるのは難しい。町全体で残していけないか考えていきたい」という。

 塞神社近くに今後、避難先で亡くなった地区の人の慰霊碑を設置する予定で、その際にも念仏太鼓踊りを披露したいとしている。(滝口信之)

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