早朝の校庭開放、小学校で広がる 専門家「根本的に必要なのは…」

有料記事

平山亜理 足立朋子 植松佳香 田渕紫織

 共働き家庭の増加で、朝の子どもの居場所づくりが課題となっている。登校時間より早く保護者が出勤する家庭では、短い時間でも子どもが1人になってしまうからだ。そんな子どもたちのため、朝の校庭開放などの取り組みが広がりつつある。背景には正社員として働く女性が増えたことや、教員の働き方改革があるようだ。

午前8時の「開門待ち」解消

 10月末の平日午前7時45分。東京都八王子市の市立由井第一小学校の校庭に、子どもたちが勢いよく駆け込んできた。人数はあっという間に50人以上に。ドッジボールやサッカーをする子、集まってしゃべる子……。思い思いの時間を過ごしていた。3年の男子児童は「早起きも全然平気。みんなと遊べて楽しい」。5年の女子児童も「遊んでからだと眠くなくて授業もがんばろうとなる」と笑顔だ。

 同小では5月、朝の校庭開放を始めた。8時15分までに登校することになっており、その前の30分間を校庭で過ごせる。放課後子ども教室を実施する地域の団体に委託し、ボランティアが、毎朝5人体制で子どもたちを見守る。

 2年ほど前まで開門は午前8時で、外で20~30人が開門を待っている状態だった。緒方礼子校長は「教員の勤務時間前で、校内で何かあっては困ると門の中には入れない対応だった」。ところが、近隣から「道路に出て危ない」「うるさい」などとクレームが入るように。昨年からは門を入った所で待たせる形にしていた。すぐ近くに子ども食堂ができ、食堂で朝食を食べて学校に早く来る子がより増えていたという。

八王子市「一律実施はできないが…」

 緒方校長によると、この地域は都心で働く保護者が多く、出勤時間が早い。1人でカギを閉めて登校する子や、保護者と一緒に家を出て校門で待つしかない子が多かった。地域の要望も受け、朝の校庭開放に踏み切った。

 保護者からは好評だ。元々門前で待っていた子だけでなく、遊びたいからと早起きをする子も増えた。遅刻が減り、不登校気味だった子も来るようになったという。

 緒方校長は「ひと遊びして頭がさえるのか、1時間目から活力を感じる。先生以外に頼れる大人がいるのは心強く、子どもの安心感にもつながっている。地域との信頼関係が土台にあってこそなので、本当にありがたい」と話す。

 市によると、市内70校のうち朝の校庭開放は4校のみ。担当者は「事情は各校で様々。要望があってかつ地域の協力が得られるところでないと実現は難しく、一律実施はできない。ただ関心は高く、市としても支援したい」と話す。

三鷹市では全校で1時間前から開放

 東京都三鷹市では11月、市立小学校全15校で朝の校庭開放を始めた。共働き家庭が多く、朝の子どもの居場所に関するニーズが高かったという。時間は午前7時半から始業までの約1時間。事業として予算をつけ、開門や子どもの見守りは業者に委託する。

 市立南浦小では初日の1日、400人近くが朝の校庭で過ごした。しばらくは遊具やボールは使わない取り決めで、鬼ごっこなどをして遊ぶ子が目立った。

 同小では以前も7時半に開門していたが、校庭での遊びは禁じられ、校舎内に入るのを待つだけだった。門野吉保(かどのよしやす)校長は「子どもの体力向上にもつながり生活リズムも整う。子どもにも親にも、先生にとってもありがたい」と語る。

大磯町は学童施設で預かり

 小学校敷地内の学童保育施設を使った「朝の子どもの居場所づくり事業」を行うのが神奈川県大磯町だ。2016年から町立2小学校で実施する。

 はじめは県のモデル事業で3カ月の予定だったが、保護者に好評で、国の補助金を活用して町の事業として継続。ほぼ右肩上がりで利用者が増え、昨年度の利用者の延べ人数はこの5年で2倍となっている。

 午前7時15分から学校の昇降口が開く8時半までの間、地域の有償ボランティアや指導員らが子どもを預かる。元々は8時15分までだったが、教員の働き方改革で一昨年から開門が遅くなり、8時半に延長した。

 学童の施設を使っているが保護者の就労要件はなく、小学校に在籍するすべての児童が対象。利用料は無料で、保護者負担は1人年300円の保険料のみだ。

「自分でカギを閉めて出てくると…」

 保護者に連れられた子どもたちは、慣れた様子でいったんランドセルを置き、絵を描いたり、おもちゃを出して遊んだりして過ごしていた。

 3年の女子児童を預ける母親(39)はJR大磯駅を使って通勤しているが、遅くとも午前7時57分発の電車に乗らなければ始業に間に合わない。子どもは1人で家に残されるのを嫌がり、かといって早く家を出ると昇降口の前で長く待たせることになる。「コロナ禍の在宅勤務や時差通勤の推奨もなくなり、ここがないと本当に困る。学校の中で安心だし、ありがたい」。女子児童は「自分で家のカギを閉めて出てくると、カギをなくさないか心配だった」と打ち明ける。

 町には、今年だけでも京都や長野、静岡などの自治体の議会から視察が相次いでいる。担当課によると、事業が続いているのは、学童施設が小学校の敷地内にあって新たに送迎の手間がかからず、早朝に子どもを見守ってくれる人材も確保できているからだという。町では15年前から放課後に週1回、有償ボランティアが子どもと遊ぶ「放課後子ども教室」を実施しており、そのメンバーが朝の見守りにも協力してくれていることが大きいという。

子どもの心身への影響 懸念点は?

 早朝からの校庭開放などの背景には何があるのか。

 社会学者で早稲田大招聘(し…

この記事は有料記事です。残り524文字有料会員になると続きをお読みいただけます。

※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません

この記事を書いた人
植松佳香
東京社会部|教育担当
専門・関心分野
子ども、教育、労働、国際関係
  • commentatorHeader
    氏岡真弓
    (朝日新聞編集委員=教育、子ども)
    2023年11月22日10時4分 投稿
    【視点】

    【助かる、でも・・・】 朝の校庭開放は、学校にとって頭が痛い問題でした。 朝7時に教頭先生が出勤し、子どもたちと校庭を走っている姿を、いくつもの学校で見ました。 早く出勤するのに、子どもに早く登校してほしい保護者。 対応しようと

    …続きを読む