ウィーン・フィルと来日のイスラエル人バイオリニスト「他者に耳を」
アラブ系イスラエル人のヤメン・サーディが、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団との来日を機に、東京で初のリサイタルを開く。26歳。同楽団の母体であるウィーン国立歌劇場管弦楽団のコンサートマスターとして、現在は楽員たちからの評価を待つ試用期間の最中だ。「音楽的にも人間的にもとても自然な良い関係を作れている。この楽団秘伝の柔らかな響きの作り方を学び取るのが、今の私の最優先課題です」。来日直後の10日、朝日新聞のオンライン取材に応じ、現在の故国の現状、および音楽に託す希望を語った。
「軍事的行動による前進はあり得ない」
8歳の時、偶然テレビからきこえてきたバイオリンの音に心を奪われた。弾いてみたいと熱望していたちょうどその頃、イスラエル北部の故郷ナザレにパレスチナ系の思想家エドワード・サイードと、イスラエルの指揮者ダニエル・バレンボイムが音楽院を創設。その最初期の生徒となる。
11歳の頃には、やはりこの2人が創設した「西東詩集」の名を冠するオーケストラの一員に加わり、16歳でコンマスに抜擢(ばってき)。その後、ベルリンのサイード・アカデミーでも室内楽を集中的に学んだ。
「『西東詩集』は政治的信条とも出身地とも関係なく、音楽のもと、誰もがただの『人間』同士として出会い、未来系の新たなコミュニティーを生み出してゆくことを理念としている。全員が相互理解への努力を惜しまない、ひとつの理想の社会の在り方のモデルになっていると思います」
ウィーン・フィルのコンマスは現在3人。いまは、その一員に加わるための修行中だ。「バレンボイムの指導を得て、何をすればいいのかが分かった状態でウィーン・フィルに関わることができて幸運でした」
「コンマスの役割はまず、そ…