倍率2千倍超の宇宙飛行士選抜試験 夢に挑んだ受験者たちの思いと今
宇宙航空研究開発機構(JAXA)の宇宙飛行士選抜試験は、2021年12月に募集が始まった。約1年にわたる試験の結果、23年2月、新たな宇宙飛行士の候補として、受験者4127人から2人が選ばれた。
倍率2千倍を超えた宇宙飛行士の選抜試験をくぐり抜けた2人は今、訓練の日々を送っている。近い将来、日本人で初めて月面に降り立つと期待されている。
2人は、世界銀行に勤務していた諏訪理さんと外科医として働いていた米田あゆさん。
今はまだ宇宙飛行士「候補」だ。約2年の基礎訓練を経て、正式に宇宙飛行士になる。
JAXAによると、2人は国際宇宙ステーション(ISS)の日本実験棟「きぼう」の使い方を学ぶほか、英語やロシア語の勉強をしているという。今後、米航空宇宙局(NASA)でも訓練を受ける。
2人にとって宇宙飛行士は子どものころからの夢だった。
諏訪さんは前回の試験も受験。だが、1次選抜を通過できず、2度目の挑戦が実った。「試験で出会った人は素晴らしい人ばかりで、合格する自信はなかった」と話す。
米田さんは「プレゼンテーション試験は苦労したが、自分の言葉で伝えることがいかに大事かを感じた」と振り返る。「身近に感じてもらえる飛行士」をめざすという。
選ばれなかった人も経験を糧に
今回の選抜試験は、自然科学系の大学卒業や専門的な実務経験といった応募条件が緩和されたこともあり、過去最高の4127人が受験した。
選ばれなかった4125人は、どういう思いで選抜試験に挑んだのか。
井口恵さん(36)は、門戸が広がったことで挑戦できた受験者の一人だ。ただ、宇宙がもともと好きというわけではなかった。
子どものころ、商社勤務の父の転勤で米国で暮らした。父の姿にあこがれ「バリバリ働く女性になりたい」と思い、横浜国立大経営学部を卒業後、公認会計士として働いた。
女性管理職の少なさを目の当たりにし、女性の働きやすい環境について考えるようになったという。
女性の少ない分野でもモデルケースとなるような人材が生まれれば、徐々に女性が増えていくはず。女性が活躍できる環境をつくろうと、女性中心の「コミュニティ」を運営する会社を立ち上げた。
運営する一つが宇宙好きの女性が集まる「コスモ女子」。専門家や宇宙飛行士を招いて勉強会を開いている。メンバーのほとんどが宇宙以外の業界で働いているが、この先のキャリアとして宇宙業界を視野に入れている人もいるという。
選抜試験の募集があったのは、宇宙業界の人たちとの交流が盛んになっていた時。当初は「コスモ女子のメンバーで誰か受験するかな」と思っていた。
だが、何人もの知人から「もともと別の分野で活躍してきたあなたこそ受けるべきだ」と言われた。
「宇宙初心者」の自分に何ができるのだろうか。考えていくうちに、一つの思いを抱いた。「宇宙に関心がない人と宇宙業界をつなげる架け橋のような存在として役に立てるのでは……」
結局、書類選抜を通過できなかったが、受験したことそのものに意義があったと思う。
「宇宙以外の分野出身の私でも、声をかけてもらい、宇宙業界に新しい風を吹かせる可能性があると自信を持てたことは大きい」
書類審査から1年が過ぎた今年5月、娘を出産した。次回の選抜試験も挑戦するつもりでいる。
「次は、挑戦している自分の姿を娘に見せられたらと思っています。失敗を恐れずチャレンジできる人でありたいし、娘にもそうなってほしい」
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