子どもの心、データで見る意味は サイトの閲覧履歴や検索数を可視化

篠健一郎
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 データを分析して子どもの内面を「可視化」する――。学校現場で、そんな試みが広がっている。自殺やいじめなどのリスクをいち早く検知するためとして国も後押しするが、プライバシー保護や個人情報の取り扱いの問題などの課題も。データは、教師の「経験と勘」を補う存在になるのか。

 東京都渋谷区は昨秋、「教育ダッシュボード」と呼ばれる仕組みを導入した。小中学生全員に配られたタブレット端末から得られる情報などを元に、一人一人の子どもの情報が、画面上で一覧できる。

 端末の利用量、どんなウェブサイトを見たかといった履歴に加え、子どもたちが今の気持ちを「晴れ」「雨」などのマークで毎日記録する「心の天気」も表示される。「自殺」「いじめ」など特定のキーワードの検索数も可視化。出欠や保健室の利用、学校生活アンケートや体力テストなども取り込まれている。

 知られたくない内容を含む可能性もあるため、情報収集していることは子どもたちにも説明。保護者が望まない場合は、端末の利用履歴をダッシュボードに表示させないといった対応も取る。卒業後は個人が識別できないように加工処理した上で、統計情報として活用しているという。

さいたま市や東京都でも導入へ

 データを通じて「見える化」することに、どんな意味があるのか。

 担当者は「情報共有することで、子どもの課題を担任が抱え込むのではなく、チームとして迅速に対応できる。教員の経験と勘に厚みを持たせるためのもの」と話す。

 さいたま市でも来年度、全小中学校・特別支援学校に本格導入する。授業などについてのアンケートの回答内容を、AI(人工知能)がポジティブかネガティブかを判断し、文字の色を変えて表示する機能や、「自殺」「死」などの特定のキーワードが記載されたり、出欠や保健室の利用が指定した値を超えたりした場合に自動的にアラートが上がる仕組みも設ける。東京都も、都立高校などを対象に、2025年から全校で導入予定だ。

専門家「日常的なデータ収集は子どもたちのストレスとなる」

 教育現場でデータ活用が広がる背景には、17年以降、政府の成長戦略に教育政策が位置付けられたことがある。中央学院大の谷口聡准教授(教育政策論)は「それまで進められていたIT環境の整備とは異なり、教育政策や学校の在り方を抜本的に変える構想が推し進められている」と話す。

 今年6月には、国のGIGAスクール構想で児童生徒に配布されたタブレット端末などを子どもの自殺リスクの早期発見に活用する方針を政府が打ち出した。

 谷口准教授は「データ活用には、先生の『経験と勘』を補う、業務を効率化するなどの利点はあるが、日常的なデータ収集は子どもたちのストレスとなり、弊害も大きい。大切なことは、学校や先生の側が、デジタル化の取り組みをコントロールできるか否かだ。本当に必要か、現場のニーズを把握した上で、データ収集・活用のあり方を慎重に検討するべきだ」と指摘する。篠健一郎

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    藤井涼
    (UchuBiz編集長)
    2023年11月12日18時13分 投稿
    【視点】

    子どもの課題をチーム内で迅速に共有できる体制にすることには賛成ですが、「監視されている」ように感じる子供もきっといるので、十分な説明とプライバシー配慮が求められそうです。同時にそれを管理する教員の皆さんのデジタルスキル向上も課題ではないでし

    …続きを読む