リニア有識者会議、報告書まとめる 議論収束

床並浩一 田中美保
[PR]

 リニア中央新幹線の静岡工区で工事の影響が懸念される南アルプスの環境保全をめぐり、国の有識者会議が7日、報告書をまとめた。静岡県が議論の継続を求めたが受け入れられず、収束した。焦点は県側とJR東海の協議に移るが、課題が山積しており、早期着工に向けて大きく前進する見通しは立っていない。

 「議論しないといけない論点がある。会議が終わるならとても残念な思いだ」

 会議の終了後。事務局の国土交通省やJRの担当者が報告書をまとめた有識者会議の議事を評価する一方、オブザーバー(傍聴者)として出席した森貴志副知事の表情はさえなかった。

 有識者会議は2020年4月、JRに対する指導や助言を目的に国交省が設置。21年12月には大井川の水資源保全をめぐり、必要な対策を講じることで「中下流域の河川流量は維持される」との中間報告をまとめた。22年6月からは南アルプスに生息する水生生物や高山植物など環境保全に絞った議論を重ねてきた。

 9月の前回会合で、不確実性が高い環境への影響の低減を目的にモニタリングや保全措置を随時見直す「順応的管理」を前提として、水生生物や高山植物、建設残土などを論点にした報告書案が提示された。この日は委員の指摘を踏まえ、一部修正した案が示された。

 県は今月1日、流量の減少が想定される沢上流域に生息する水生動物など「影響予測が不十分で、保全措置の計画が立てられない」として議論継続を求める意見書を提出。この日も傍聴者の立場から森副知事が「十分な議論をして報告書をまとめてほしい」と「直訴」したが、座長の中村太士・北海道大教授に一任することで閉会した。事務局の国交省も「(計画が)着実に実行されるよう継続して確認していく」としながら、「科学的、客観的な論点から、大きな方針をまとめてくれた」と議論の終結に理解を示した。

 県は有識者でつくる県専門部会でJRと対話を継続する方針だが、有識者会議の報告書に盛り込まれた残土の処分方法をめぐっては、県条例や災害リスクを理由に、「認められない」との立場を堅持している。

 会議後、森副知事は報道陣の取材に「生物に対する影響の予測や万が一の場合にどう対応するかなど、根本的なところが議論されていない印象がある。我々の意見書が完全に反映されているとの認識はない」と説明。「県専門部会でもう一度考えないといけない」とした。

 一方、JRの宇野護副社長は「報告書がまとまったことは喜ばしいが、会議が終わってすべてが解決するわけではない。具体的に進めるために県や静岡市と十分なコミュニケーションをとり、モニタリングや保全措置を具体化していく」と述べた。(床並浩一、田中美保)

国土交通省有識者会議をめぐる主な動き

2018年11月 県専門部会が議論を開始

2020年4月 国有識者会議が設置され、大井川の水資源保全めぐる議論本格化

2021年12月 水資源保全めぐり「湧水を戻せば中下流域の河川流量は維持される」と中間報告

2022年6月 環境保全めぐる議論開始

2023年11月 環境保全めぐり最終報告書まとめる。近く公表へ

環境保全に関する報告書の主なポイント

・限られたデータや仮説にもとづく対策で、自然環境は複雑なため不確実性がある。その前提で対策を考える必要がある。環境への影響を最小限にするため保全措置やモニタリングなどを適時見直す「順応的管理」で対応

【地下水の変化による影響・対策】

・断層とトンネルが交わる辺りの沢の流量が減ると予測され、35ある沢のうち11を重点的にモニタリングする

・沢の流量減を抑えるため、事前に薬液を注入する

・トンネル掘削前後と掘削中に、降水量を測定し、沢の地形・流量、水温・水質などを測る

・植生に影響は及ばないと考えられるが、モニタリングを続ける

【地上部分の影響・対策】

重金属などを含む発生土は二重遮水シートで封じ込め

【まとめと今後への提言】

・国は今回の対策が着実に実行されているか継続的に確認するべきだ

・JR東海は静岡県など地域と双方向のコミュニケーションを十分に図る

有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。

※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません