「対テロ」の名の下に…911の教訓はどこへ 国連特別報告者の警告

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 イスラム組織ハマスがイスラエルに越境攻撃を仕掛けて、1カ月が経ちました。イスラエルはハマスを過激派組織「イスラム国」(IS)などと同一視し、反撃を進めています。

 ただ、そうした「対テロリズム」の名のもとに、多くのパレスチナ人が犠牲になっています。現在の情勢をどう見るか。国連人権理事会で「対テロリズムと人権」の特別報告者を務める大学教授、フィオヌアラ・ニ・エーライン氏に聞きました。

「テロ」を構成する3要件

 ――報告書を書くにあたり、「テロリズム」をどう定義していますか。

 誤用されていることも多いのですが、国連安保理決議などで定められており、何がテロリズムなのかについて、あいまいさはありません。一般市民を対象にすること、無差別であること、そして人びとに恐怖を与える意図があること。この三つの要素があります。

 ――その定義から行くと、10月7日のハマスの行動は明らかに「テロ」ですね。

 その通りです。テロ行為であり、戦争犯罪であり、また、人道に対する罪になる可能性もあります。2001年の米同時多発テロ(9・11)はテロ攻撃ですが、私は人道に対する罪でもあると認定しています。つまり、ある特定の一つの行為が、複数の国際法違反に該当する可能性があるのです。

 ――10月に出された報告書の中で「人権と法の支配の強化」の必要性を強調しています。なぜですか。

 この20年間でテロや過激主義が増え続けてきた理由の一つは、9・11以降、我々が国際社会に「テロ対策」のための合法的な枠組みを与えてきたからだと、私は信じています。対テロに関する法制度の組織的な悪用と、安全保障のための法律や実務の悪用です。

 その結果、暴力と抑圧、差別の連鎖が生まれてきました。「法の支配」に沿ったテロ対策でなければ、テロリズムの問題を増大させるだけなのです。

 人権を守らない限り、効果的なテロ対策はできません。抑圧をすればするほど、暴力が生まれます。抑圧が暴力を生むことは、誰でも理解できることです。

 ――この20年間で、対テロの名のもとに人権や国際法が侵害されてきた事例を教えてください。

 一つは、キューバ・グアンタナモ米海軍基地内の収容所の存在でしょう。9・11後、米国は780人ものイスラム教徒の男性を収容し、拷問しました。しかし、有罪判決を受けたのはごくわずか(英人権団体によると9人)で、ほぼ訴追すらされませんでした。

 二つ目は、中国の新疆ウイグル自治区で、ウイグル族ら少数民族が強制収容された「再教育施設」です。国連人権高等弁務官事務所は「深刻な人権侵害」だと認定しています。

 三つ目は、中米ニカラグアの事例です。ニカラグア政府は昨年、300もの人権団体や市民団体を「対テロ」の名目で閉鎖させました。これは明らかに国際法違反です。政府に反対する人びとを封じ込めるため、「対テロ」を利用したわけです。

「9.11後の対応は失敗」

 ――9・11と、その後について聞きます。この二十数年間の教訓とは。

 最大の教訓は「9・11後に…

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