「私は出る杭ですか?」韓国トップ俳優ペ・ドゥナが問う女性への偏見

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構成・細見卓司

 映画界で働く環境の変化や、男女の差、そしてさらには映画そのものの意味――。韓国から第36回東京国際映画祭(10月23日~11月1日)を機に来日したトップ俳優ペ・ドゥナさんは映画祭のトークイベントで映画界の現状について率直に語り、朝日新聞のインタビューには、自身が過去に受けたハラスメントも打ち明けつつ、女性への根強い偏見についての思いを語ってくれた。そして投げかけた。「私は出る杭ですか?」

 ペさんは10月27日、東京国際映画祭の公式プログラムとして、高級ブランドグループ「ケリング」による、映画界で活躍する女性たちに光を当てる「ウーマン・イン・モーション」のトークセッションに参加した。3回目の開催となる今回は、ペさんや俳優の水川あさみさん、WOWOWのプロデューサーとして国際共同制作などを手がけてきた鷲尾賀代さんが女性を取り巻く環境やあり方について話した。

 《冒頭、ペさんは司会者から役者を続けられるモチベーションについて質問された》

 「私の母は舞台俳優です。母からの影響というよりも、街中でスカウトされて、モデルをしながら俳優の道へ進みました。演技が難しく感じる一方で、チャレンジすることに中毒性も感じていたので、難しいことにチャレンジしながら続けてきました。演技をすることのモチベーションは、今は情熱というよりも、私の人生のほとんどすべてを占めているのが俳優としての人生ということ。自然とそうなっているかもしれません」

 《その次に、韓国映画が世界的に躍進している理由についても見解を求められた》

 「私も本当に気になっていました。海外の友人に聞いたことがありますが、西洋にいる友人たちは韓国のコンテンツや映画が好きです。『何がそんなに面白いの?』と尋ねると、『さまざまな感情を1本の映画から感じられる』と。韓国映画は、どの国の映画もそうだと思いますが、人間力が大きい。監督、スタッフ、俳優がどんな風に映画にして、人々に届けられるかということを確固たる目標をもってやっている。その情熱が映画からも伝わってくるのではないでしょうか」

 「観客の目にも育てられていると思います。私は韓国の観客しか知らないので、他と比較はできませんが、こんなに映画好きな民族は珍しいのでは。韓国のコンテンツが力を発揮できるのは、観客のレベルが上がっているから、私たちもそのレベルに合わせていくという相互作用があると思います」

 《労働環境という意味でも、ペさんがデビューしたばかりの2000年ごろの過酷さと異なる実感があるという》

 「デビューした当時、2~3時間しか眠れない日々でした。ドラマの今週放映分を、今週撮るような形でした。台本が撮影5分前にメールで送られてきて、一生懸命覚える。そんな韓国の現場でしたが、今は1週間で52時間という労働時間の上限が決まっていますので、現場で働く環境は良くなりました」

 「最初に著名な女性監督と仕事をしたのが、『子猫をお願い』という2000年代序盤の作品で、今だから感じますが、本当に女性の映画監督は当時は少なかった。3~4人ぐらいじゃなかったでしょうか。現場でも女性スタッフが少なくて、女性スタッフが最年少だと可愛がられますが、彼女たちが監督になると摩擦が起きるのです。男性監督には生じない葛藤が生じる。若かった頃に目撃して、不当だなと思いました。今は人々の意識が改善されてきていると感じます」

 《韓国でも社会全体に広がった#MeToo運動についても語った》

 「私は、#MeTooのように、そういったケースをみると、声をあげるべきだと考える人間です。今は過渡期のような気もします。声をあげ、語られるようになり、人種差別や性差別についても意識することで、大衆芸術において政治的な正しさを今は強調している。声をあげて過ちを正していくのはすべきことですし、権力を利用して誰かのなりわいが左右されるような状況は正常ではありません。映画界がよりクリーンになってほしいと思います」

 《鷲尾さんが語った「出る杭は打たれる」ということわざについても、反応を示した》 「『出る杭は打たれる』という言葉に衝撃を受けました。でも、出る杭はそれがたくさん集まっていれば、どこに当てたらいいのかわからなくなって大変になるかもしれません。だからこそ、『当たって砕けろ』で、ぶつかってみる。始めようとしている人には勇気と希望を伝えたい」

鳴り響いた怒鳴り声

トークセッションの後、朝日新聞の単独インタビューに応じたペ・ドゥナさんは、自身がかつて受けたハラスメントについても打ち明けました。韓国映画界で女性を取り巻く環境が好転していると実感しているペさんですが、韓国のジェンダーギャップ指数の順位について、記者が指摘すると……。

 《トークセッションの後には、朝日新聞の単独インタビューに応じた。ここでは、かつて自身が受けたハラスメントについても、打ち明けた》

 「今でももしかしたらハラス…

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