ジャニー氏への「感謝」語る訳 被害者が囚われる「トラウマ性の絆」
故ジャニー喜多川氏の性加害について、日本外国特派員協会での記者会見で公にした元ジャニーズJr.のカウアン・オカモトさん。「15歳の僕とほかのJr.に性的行為を行ったことは悪いことだ」といった非難の言葉の一方で、「ジャニーさんには感謝している。僕のエンターテインメントの世界はジャニーさんが育ててくれた」とも述べました。ほかの元Jr.でも朝日新聞の取材に「性被害を除けば」とした上で「すごくいい人だった」と感謝を語った人もいます。被害者はなぜ、加害者への感謝を口にするのか。児童虐待とトラウマに詳しい精神科医・亀岡智美さんは、加害が繰り返されるうちに「トラウマ性の絆」に囚(とら)われてしまっているからだと指摘します。加害者を全否定できない心理状況に陥るわけを、尋ねました。
――非難しながらも、被害者が加害者への感謝や尊敬、いい人だなどと口にするのはなぜでしょう。
これは決して珍しいことではありません。家庭内の性的虐待のように繰り返される虐待でも、加害者が自分に愛情を持っているからとか、私は愛されているんだととらまえて、加害者に対してポジティブな気持ちを抱くことはあります。
例えば塾の先生による被害の場合、学習の仕方など個別に親身に相談にのってくれる先生が、その延長線上で性暴力に及ぶと、「僕のためにしてくれている」というとらえ方から抜け出せないことがあります。
私たちは治療の最初に、加害者に肯定的な気持ちを持つことはよくあると教えるようにしています。それを否定してしまうことで子どもたちが口を閉ざし、相談できなくなると困るからです。
閉鎖空間での圧倒的支配
――肯定的な感情を持つ場合、加害者と被害者の関係性で特徴はありますか。
力の不均衡がある関係性において、ポジティブな行為もあれば性暴力のようなネガティブな行為もあるという善と悪が交互に生じるような状況が続くと起こりやすいと言われています。この現象はトラウマティック・ボンディング(Traumatic Bonding)「トラウマ性の絆」といって、性暴力被害に限らず様々なところで起こります。
――トラウマ(こころのケガ)と絆、全く逆のようですが。
有名なのが、1970年代にストックホルムで起きた人質事件で「ストックホルム症候群」という言葉にもなっています。銀行に立てこもった強盗犯は人質に銃を向けるなどひどいことをする一方、時々親切な行為をします。そんな閉鎖空間で一定期間、犯人と一緒に過ごした人質たちの中に、警察が踏み込んだ際に犯人を守るような行動をとった人がいることがわかりました。
カルト教団などでも同様のことが起こることがあります。閉鎖空間の中で行動を支配され、ひどいことをされても、時々温情があると絆が強まってしまいます。DV被害者も、激しい暴力を受けているのに逃げられない、あるいは、せっかく逃げたのにまた戻ってしまうということがあります。
圧倒的な支配下で、暴力が爆…