石巻の離島の映画「ほやマン」、間もなく全国公開

原篤司

 ホヤは海を漂い、定着できる岩場を見つけると脳を失う。その後の一生を「思考停止」のまま過ごす生態に着想を得た映画「さよなら ほやマン」が11月3日、全国50館で公開される。国内屈指のホヤの産地・宮城県石巻市出身の監督が、市内の離島・網地島で撮影。人生の岐路に立つ人に向けた作品に仕上げた。

 作品の舞台は、漁業が盛んな同市の小さな離島。東日本大震災の津波で両親が行方不明となった漁師の兄弟と、東京から突然やってきた女性漫画家が奇妙な共同生活を送り、自分たちの人生を再生させていく106分の物語だ。

 兄弟は、両親をのみ込んだ海でとれたものを一切口にせず、カップラーメンばかり食べて過ごす。兄は軽度の障害がある弟がいる以上、島外では暮らせないと思い込む。様々な騒動を通して、自らを縛ってきたそんな固定観念から解放されていく姿が、時に笑いをもって描かれている。

 脚本も書いた庄司輝秋監督(43)=東京都国分寺市=は、広告会社で働くCMディレクター。震災を機に石巻を題材にした映画制作を始め、2013年には文化庁の若手映画作家育成プロジェクトに応募した短編映画「んで、全部、海さ流した。」を公開。「ほやマン」は2作目で、初の長編作だ。

 5年ほど前、石巻市の実家でホヤを食べた時にふと気になった。調べて定着後に脳をなくす生態を知り、「自分では選べなかった境遇の中で人生を諦め、惰性で生きる人みたい。俺もそうかな」と思った。すぐ作品の構想が広がり、映画に登場するごつごつしたオレンジ色のキャラクター「ほやマン」を思いついた。

 ほやマンは、人間とホヤの中間的存在という位置づけで、脳がなくなりかけて「ここでいい、俺はこんなもんだから」と我慢し、諦めている。思考停止状態からの脱却を願い、題名にした。庄司さんは「この映画が、本当に自分がしたいことが何かを立ち止まって考え、実行する後押しになれば。人生の岐路に立つ人にぜひ見てほしい」と話す。

 兄・アキラを演じる人気バンド「MOROHA」のアフロさんほか初主演や映画デビューの役者も多い。

 庄司さんは「自分の存在を見てほしいという熱にあふれ、脚本の登場人物と同じマインドだった」。網地島での撮影は22年9~10月の3週間、約40人が島内に泊まり込んで行われた。

 島は周囲約20キロで200人余が暮らす。多くがエキストラ出演したほか、兄弟が住む家や家財道具、船などは、ほぼ全て住民が貸し出した。兄弟の父親を演じた、漁業の沢口佳伸さん(43)は「撮影は一生の思い出になった。映画のおかげで島が広く知られ、訪れる人が増えたらうれしい」と話した。

 9月上旬に石巻市内であった試写会には、「ほやドル」として活動する萌江さんが出席。出演者が生のホヤを食べるシーンも多く、「ここまでホヤづくしの映画は世界初。生き方を考えさせてくれる映画だし、ホヤもPRしてくれるし、最高です」と興奮気味に話した。

 出演者らがそろう舞台あいさつは、11月3日に新宿ピカデリー、4日にイオンシネマ石巻などで予定されている。(原篤司)…

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