もう限界…性被害を受けた人の支援拠点 先駆者が訴える運営の危機

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荻原千明 寺尾佳恵

 性暴力被害に遭った人たちの医療面や精神的なケアを総合的に担う「ワンストップ支援センター」と呼ばれる拠点が現在、すべての都道府県に設置されている。相談件数は増加傾向にあり、国も態勢強化を呼びかけてきた。ところが、先駆的存在とされたセンターが苦境に立たされている。

 「親に言えないです」「どうしたらいいでしょうか」

 中規模な民間病院の奥まった一角。

 過去に受けた性暴力の記憶や家庭内の性虐待、たったいま遭った性被害――。NPO法人「性暴力救援センター・大阪(SACHICO〈サチコ〉)」の24時間ホットラインに寄せられる声に、支援員らが耳を傾ける。

 来所を促し、産婦人科医らが診療することもある。72時間以内が目安の緊急避妊ピルの服用や膣(ちつ)の内容物など証拠の採取、性感染症の予防。過去の被害の声とも向き合う。そして、「あなたは悪くない。被害者だよ」と伝えてきた。

 2010年4月に事業を始めた。22年度は約4千件の電話を受け、初診だけで406人に上った。強制性交等罪(当時)にあたる可能性がある被害は22年に227人で、府警の認知件数(213件)より多かったという。

「先駆け」の拠点、医師が対応できず

 拠点を置くのは、病床数199の阪南中央病院(大阪府松原市)。病院が費用を負担し、診察室やトイレ、シャワーなども整備した。運営費や医療費は寄付でまかない、必要があれば院内の産婦人科医らが駆けつける態勢を整えた。

 内閣府は、SACHICOを性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センターの「先駆け」と評する。12年に国が出した開設・運営の手引でも取り上げられ、各地から見学が相次いだ。

 国の交付金ができた17年度から府が補助金を出す。22年度は約1500万円で、支援員の報酬や弁護士の相談料、拠点の賃料などに充ててきた。

 そのSACHICOが危機を訴えている。医師が対応できず、別病院を案内しないといけない事例が増えているという。別病院で証拠を採取し保管が必要な場合はタクシーで取りに走り、零下80度前後の専用の冷凍庫に収めている。

 同病院によると、背景にあるのは医師の人手不足だ。7人いた産婦人科医のうち2人が産育休で不在、1人は時短勤務に。地域周産期母子医療センターとして妊婦健診も多く、「対応を制限せざるを得なくなっている」と担当者は話す。

 活動に加わっても医師や病院に手当はない。医療現場の働き方改革も迫られており、病院側の負担は大きいという。

 SACHICOの中心メンバーの産婦人科医、加藤治子さん(74)は「民間病院や医師の頑張りでは、息切れを起こしている」と語る。「被害者のための活動をどう維持するか、根本的に話し合う場をまず行政に作ってほしい」と言う。

「SACHICOがなければ…」 当事者の思い

 10代だった長女が性被害に遭い、ここに7回通ったという女性(59)は「安心して、何でも言っていいと思える場所」と話す。

 長女は、家族以外とは話せなくなる場面緘黙(かんもく)という症状と軽度の知的障害がある。自立訓練に通っていた施設からの帰り道、男にホテルに連れ込まれ、服を脱がされて体を触られた。男の隙をついて逃げ出したという。

 SACHICOでの支援員の…

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    浅倉拓也
    (朝日新聞記者=移民問題)
    2023年11月1日21時0分 投稿
    【視点】

    国連の「女性に対する暴力に関する立法ハンドブック」は、「法は、女性20万人につき1カ所のレイプクライシスセンターを設置するという最低基準を設けるべきだ」としている。日本の女性人口に当てはめると320カ所以上になる・・・ 記事を読んで、

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