「現場、どこか根性論」…映画界の環境良くしたい 斎藤工も声あげた

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細見卓司
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 日本映画を支えている多くのフリーランスのスタッフらが劣悪な労働環境を強いられたり、ハラスメントを受けたりすることを防ぎ、映画産業が持続的に発展していくために今年4月にスタートした一般社団法人「日本映画適正化機構(映適)」(昨年6月発足)の認定制度。はたして映画制作現場はどのように変化しているのか。現場のスタッフたちが現状と課題について話し合うシンポジウムが30日、東京都内で開かれた。シンポジウムの終盤、会場の後方の席に座って、会議の模様をじっとみつめていた黒服にマスク姿の男性がマイクを握って、発言し始めた。「俳優部の斎藤工です」――。

 認定制度は、今年3月、東宝や東映など大手4社でつくる「日本映画製作者連盟(映連)」、独立系プロダクションで構成する「日本映画製作者協会」、監督や撮影、シナリオ、編集など八つの映画職能団体が協約に調印したことで本格的に始まった。

 具体的には、映画製作者と制作会社間の契約書に役割分担や予算の取り決めを明記したり、制作会社とフリーランスのスタッフ間で契約書を結ぶ▽撮影時間は1日13時間(準備・撤収、休憩・食事を含む)以内とし、作業・撮影時間が13時間を超える場合には、10時間以上のインターバルを設ける▽週に少なくとも1日は撮休日を確保し、2週間に1日の完全休養日を確保する▽1日の作業・撮影時間が6時間以上にわたる場合は、30分以上の休憩・食事を1回以上確保する▽映画製作者は、ハラスメントに関する相談を受けられる体制を構築。ハラスメントの防止についてはプロデューサーが責任を持ち、可能な限り解決するよう努め、現場での解決が困難な場合には映適に相談するなど第三者による解決方法を活用する――などのガイドラインに基づいて制作を行うというもの。

映適が適正に制作が行われているかを審査し、クリアすれば認定マークである「映適マーク」を与える。映適によると、現時点で2作品が認定を得ており、約30作品が映適マークを得るべく申請中という。

 30日のシンポジウムでは、実際にガイドラインのもとで制作を行ったスタッフの声を紹介。撮影時間について「制作部や演出部も準備があり、13時間に収めるのは難しい」といった意見もあったが、「13時間オーバーでなくてもインターバルは全日に当てはめるべきでは?」との声もあった。休憩や食事については、「初めてスタッフ全員が食事をとれた。これまでは食べられない人もいた」という声も紹介された。

「初めてスタッフ全員が食事とれた」

 一方で、シンポジウムに参加した女性スタッフは、完全な休日は月に2日間というガイドラインを引き合いに発言し、「一般的な過労死ラインを超えているのではないか。感覚がまひしていて、体が慣れてしまっていて、そのおかしさに気づかない人もたくさん現場にいらっしゃると思いますが、そうしたガイドラインを出していることについてやはり問題意識を持って頂きたい」「普通に土日休みにできるような業界にしていけばいいのではないか」と訴えた。

 この声を受けて、別の男性スタッフは「ガイドラインができたというのは、本当にスタート地点にようやく立ったということ。これから映画業界に入ってくる皆さんにやめてほしくない。やめていく人たちがすごく多い。入ってきて、こんなはずじゃなかったと。やめざるをえないような形で失望させているということを、我々が反省しなければいけない部分もある。スタート地点なのだから、ここは変えていかなきゃいけないということも出てくると、みんなが一緒になって変えていかなきゃいけない」と強調した。

 こうした議論を経て、シンポジウムの終盤に声をあげたのが俳優の斎藤工さんだった。こう切り出した。

「僕も憧れで入った世界ですが、現場の様式が、どこか根性論……」マイクを握った斎藤工さんは、熱を込めて語りました。記事の後半でこの日の発言の詳細をお伝えします。

■どこか根性論な現場…

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    吉川ばんび
    (作家・コラムニスト)
    2023年10月31日5時3分 投稿
    【視点】

    「日本映画適正化機構(映適)」によるガイドラインを読んで感じたのは、まず「映画がこんなにも過酷な環境で作られているのか」という驚きでした。シンポジウムに参加した方々の発言にもあるように、ガイドラインが作られたことはまだまだスタート地点に立っ

    …続きを読む