大手IT会社を退職 移住先でつかんだ作家デビューの夢 高山環さん

平塚学
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 宮崎市在住の小説家高山環さんが10月、死に神に余命宣告された2人の高校生を主人公にした恋愛ミステリー小説「ふたりの余命 余命一年の君と余命二年の僕」(宝島社)で作家デビューを果たした。外資系のIT会社を退職。電子書籍出版で人気を集め、実績を積んで商業デビューした異色の経歴だ。

 東京都葛飾区生まれ。大学卒業後に就職情報誌の出版社に就職し、外資系の大手IT会社に転職。宮崎では日本法人のカスタマーセンターのセンター長として仕事をしていた。

 小説は中学時代から趣味として書き始め、大人になってからは電子書籍で個人出版をしてきた。転機は2016年。交通事故に遭ったことがきっかけで、「人は簡単に死ぬ。どうせなら好きなことをしよう」と40代半ばで会社を退職。本格的に作家としての創作活動に入った。

 退職の際は、周りから「バカだな」「なんで辞めるんだ」と止められた。収入は激減したが、家族は応援してくれたという。現在までに書きためた長編小説は25作品。努力は実を結び、昨年は「みやざき文学賞」で佳作に選ばれ、今年はポプラ社の小説新人賞で奨励賞も贈られた。

 今回文庫本になった「ふたりの余命」は、もともと20年に原型を書き上げ、翌年にアマゾンの電子書籍「Kindle」で発表した。レビューや評価の高さが宝島社編集部の目にとまり、改稿・改題して書籍化した。

 舞台は神奈川県。死に神から余命宣告を受けた高校生の男女が、その運命にあらがい、自分たちの夢を追いつつ、ある事件の犯人を捜すミステリーになっている。高山さんは「書いた瞬間にいいものが書けたと実感でき、泣けてくる作品だった」と振り返る。

 現在も住み続ける宮崎。暑い日差しなどの宮崎の特徴が今回の小説にも生かされているという。宮崎市内は海と山が近い。普段はカフェや自宅で執筆をしているが、時には海を眺めながら作業をすることもあるという。

 高山さんは「街がコンパクトで住みやすく、人間関係のストレスもない。東京と地方の両方の視点で物事を見ることができるようになり、小説家としての深みが出てきた。宮崎は作家が暮らすには最適の場所かもしれない」と話す。

 今後も宮崎に住み続けながら、SFやファンタジー、ミステリー、恋愛とジャンルにこだわらずに創作を続けていくという。高山さんは「読者の方々の心に残るような、生きる原動力になるような小説を書き続けたい」と意気込む。

 「ふたりの余命」は全国の書店で販売。定価は820円(税込み)。(平塚学)

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