過去最悪ペースで人を襲うクマ 「2010年問題」追う専門家に聞く

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樫村伸哉

 クマに傷つけられる。その数は今年4~9月、全国で109人。過去最多だった2020年同期の86人を超え、過去最悪のペースだ。クマの世界で何が起きているのか。日本の野生動物の生態研究の第一人者、大井徹・石川県立大特任教授に聞いた。

私も、親子グマに遭遇した

 ――富山市で17日、自宅敷地でクマに襲われたとみられる79歳女性が亡くなった

 残念な事故です。付近では親子で徘徊(はいかい)するクマもいたようですね。子グマを連れた母グマは過敏に反応します。

 私も遭遇した経験があります。森林総合研究所にいたころ、調査のため岩手県の山道を車で走っていると、曲がり道の先に母子3頭が急に現れました。子グマが後ろの木の上に登るやいなや、母グマがダァーッと突進してきて、右前足でボンネットをバンッとひっぱたいてきた。乗っていたのは、ランクルのような大きな公用車ですよ? 爪痕が車体に残っていました。母グマはそのまま斜面を上がったので、窓を開けて写真を撮ろうとしたら、また走って来てにらみつけられたんです。

大井さんは森林総合研究所(茨城県つくば市)で野生動物研究領域長を務めるなど、ニホンザルやクマの生態を研究してきた

1日8000キロカロリーも食べる、弱いクマを捕食も

 ――冬眠を控えた今のクマの日常は?

 えさを探して活発に歩き回っています。主な食べ物はブナ、ミズナラ、コナラのドングリ類。「hyperphagia(貪食)」という食欲亢進(こうしん)期です。普段なら十分に食べると満腹中枢が働いて食欲を抑えますが、今は食べても食べてもおなかが減った状態。90キロぐらいのクマなら1日で8千キロカロリーほどを食べるという報告もあります。

 12月には始まる冬眠中は飲まず食わずで、秋にため込んだ脂肪を消費しながら来春まで生き延びます。

 被害が急増している地域はドングリ類が不作で、富山県も同様です。不作の年には、強いクマがえさを独占します。弱いクマは強いクマに捕食されてしまうこともあります。

 山にえさがないからクマは人里に下ります。多くの栄養が必要な親子グマも人里に出てきます。子どもが捕食される可能性があるので、人里に逃げているのではという説もあります。柿、栗の実はドングリより粒が大きく、ごちそうです。クマからすると人里は「天国のような場所」と言えます。

クマ2010年問題

長年クマの生態を見てきた大井さんが、注目している動きがある。それは、2010年代から起こったクマの生活圏の変化だ

 ――いまクマの世界に何が起きているのですか

 環境省の2018年の分布調…

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