南極西岸の棚氷の融解「コントロールできない」 海面上昇の引き金に

気候変動を考える

市野塊
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 深刻な地球温暖化の進行によって、温室効果ガスの排出を減らしても今世紀中は南極西岸の棚氷が溶けるのを止められないおそれがあると、英国南極観測局の研究チームが発表した。すべて溶ければ将来的に世界の海面を最大約5メートル上昇させる可能性があるという。

 チームはスーパーコンピューターを使った予測モデルで、南極西岸のアムンゼン海の棚氷を分析。今後の温室効果ガスの排出ペースに応じて五つのシナリオをあてはめたところ、産業革命以降の気温上昇を1・5度以内に抑えたとしても棚氷が溶けるという結果は変わらなかった。20世紀に氷が溶けた速さの3倍という。

 棚氷は、大陸を覆う氷床が海に張り出した部分で、溶ければ大陸を覆う氷床が海に流れ出しやすくなる。この地域には南極の1割の氷があるといい、正確な試算はしていないとしながら、世界の海面を最大5・3メートル上昇させうる量だという。

 南極では、今年9月に冬の海氷面積が観測史上最小になるなど、温暖化の影響が顕著に現れている。溶け始めた氷を再び元に戻すことは難しく、対策を強化しても悪化を止められなくなる「ティッピングポイント(転換点)」に至っているおそれがある。

 チームのケイトリン・ノートン博士は「私たちは西南極の氷の融解をコントロールできなくなってしまった。何十年も前に気候変動への対策が必要だった」と指摘した。一方、「化石燃料への依存を減らす努力を止めてはならない。海面水位の変化が遅ければ遅いほど、政府や社会は止めることはできなくても、適応しやすくなる」と話した。

 論文は英科学誌ネイチャー・クライメート・チェンジに掲載された(https://doi.org/10.1038/s41558-023-01818-x別ウインドウで開きます)。(市野塊)

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