第35回「無意識のうちに…」ジーニアス和英辞典が「阪神びいき」になるまで

有料記事

松岡大将

 「彼はタイガースのこととなるとすぐに熱くなる」「金本のホームランでタイガースは6―2とジャイアンツを突き放した」……。大修館書店(東京)の発行する「ジーニアス和英辞典」は、プロ野球・阪神タイガースにまつわる例文がてんこもりだ。なんでこんなことになったのか。

 初版は1998年、第2版は2003年、最新の第3版は11年に出た。シリーズ累計の発行部数は約150万部。和英辞典では業界首位の売れ行きだと同社は説明する。

 第3版に収録している語句数は約8万3千、例文は10万以上あり、そのうち60の例文に「阪神」や「タイガース」が登場する。「この回タイガースは打者10人の猛攻で5点を取った In this inning the Tigers sent ten batters to the plate and scored five runs」「昨夜、タイガースはジャイアンツ相手にヒットを打ちまくった The Tigers got a lot of hits against the Giants last night」など、阪神がやたらと強いのが特徴だ。

 「阪神タイガース」という言葉自体は出てこないものの、「ファンの多くは岡田監督の留任を望んでいる Many fans want Okada to remain [stay on] as manager」など関連する例文も多く存在する。

 なぜ、「阪神びいき」の辞書になったのか。

改訂の度に反映される編者のこだわり。ただ、「偏り」は競合他社の辞書にも。詳細は後半で。

 編纂(へんさん)のまとめ役…

この記事は有料記事です。残り2125文字有料会員になると続きをお読みいただけます。

※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません

  • commentatorHeader
    佐倉統
    (実践女子大学教授=科学技術社会論)
    2023年10月28日11時0分 投稿
    【視点】

    おもしろいなあ。意図的にやったのではなく、編集者に関西人が多いので無意識にこうなったというのが驚きだ。関西(西宮市)出身の知人にアンチ阪神というのもいて、東京基準からすると阪神がアンチの対象になりうる存在であるというのが意外だった。アンチ・

    …続きを読む
  • commentatorHeader
    天野千尋
    (映画監督・脚本家)
    2023年10月28日11時47分 投稿
    【視点】

    「辞書」という、いかにも固そうなイメージのものの奥に人間味が感じられる、チャーミングな記事でした。 辞書から受けるイメージといえば、事務的で、緻密で、なんとなくAIとかロボットが向こう側にいるような気さえしてしまいますが、実は辞書を編纂して

    …続きを読む

連載阪神アレ・コレ(全50回)

この連載の一覧を見る