市議が地元ゆるキャラの「著作権侵害」 政治利用も 監査委員指摘

田中祐也
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 大阪府吹田(すいた)市の自民党市議が、市のマスコットキャラクターと酷似したキャラが登場する動画を配信し、市の監査委員が「著作権侵害」と認定した。さらに動画には、「特定の政治や思想の支持もしくは批判またはそのような誤解を与える恐れがあるものが含まれている」とも指摘し、使用停止を求めなかった市のこれまでの対応を「不適切」とした。

 市に動画でのキャラの使用停止を市議に求めるよう住民監査請求があり、監査結果は16日付で、18日に公表された。財政上の損害はないとして、請求自体は棄却された。

 市のキャラは「すいたん」で、動画を配信しているのは藤木栄亮(えいすけ)市議(55)=5期目。ユーチューブの自身のチャンネルで、「すいたんのこれ知ってる?」というシリーズを配信し、すいたんを名乗るキャラと会話している。

動画で「(吹田市は)共産党の支持者の巣」

 キャラの声は女性で、年齢と思われる数字を57などとしていた。市議が「(吹田市は)共産党の支持者の巣」「左巻きの自治体」などと発言し、キャラが震えながら「いやー怖いわー」と答えるものがあった。さらに市議が「僕らが言うてニュートラルに戻してきた」などと話すと、キャラは「戦ってんねんやん藤木さーん」と応じる動画などもあった。

 市のすいたんの使用要領では、声を出すことや、特定の政治や思想の支持や批判などを認めていない。

 動画に気づいた市民らが8月、「著作権侵害であるうえ、政治的な目的に利用され、市議の見解が市の公式見解のような誤解を与える」などとして住民監査請求をした。

 市はこれまでの取材に、動画のキャラを「市議によるパロディーの二次創作で、使用要領の適用外。市の管轄外であり違反には当たらない」と主張。管理するすいたんは、市があらかじめ決めた約140種類のデザインや人形のみとしていた。

 一方で、市民から問題視する声があったことを受け、市は市議に修正や削除を「お願い」した。しかし、「吹田市イメージキャラクターすいたん」という表記を「すいたん」とすることなど、一部の修正にとどまったという。

監査委員、市の判断を「不適切」

 また、市は「市民の声を受けた」として8月、二次創作について、特定の政治や思想の支持や批判などを禁じるガイドラインを出した。ただ、市議の動画を含む過去の二次創作は「対象にしない」としていた。

 監査結果では、市議の動画を「著作権がある市の許諾を得ずに行われたすいたんの二次創作物の使用で、著作権を侵害している」と指摘。市に対しても「二次創作は市の権利で、侵害された際に動画の削除または修正のお願いしかできないと判断したのは不適切。使用の停止を求めることはできる」とした。

 市の担当者は取材に対し「内容を精査し、今後の対応を検討したい」と話した。市議には9月以降、直接取材を複数回試みるなどしたが、動画を作った経緯や理由について明確な答えは得られていない。田中祐也

著作権に詳しい斎藤理央弁護士の話

 藤木栄亮市議の動画のキャラとすいたんは非常によく似ている。全く同じでなくても、似ていれば著作権は及ぶため、市議の動画に登場するキャラにも市に著作権があると考えるのが自然だ。約140点のデザインしか著作権は発生しないという市の見解は、市議への忖度(そんたく)に対する言い訳に聞こえる。著作権の及ぶ範囲を自ら狭めており、市民の財産であるすいたんの価値を大幅に低下させかねない。

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