イスラエルはいかにしてハマス侵攻を許したか【前編】 NYT検証

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ロネン・バーグマン パトリック・キングズレー/The New York Times

How Israel’s Feared Security Services Failed to Stop Hamas’s Attack【前編】

侵攻前に「異変」察知も…

 7日の夜明けに戦闘員がガザからイスラエルに侵攻する少し前、イスラエルの情報機関は、監視しているガザ武装勢力のネットワークの一部で活動が急に活発になっていることを覚知した。イスラエル治安当局の高官2人によれば、異変を察知した情報機関はガザ国境を警備するイスラエル軍兵士たちに警報を発信した。

 しかし、現場の兵士たちが警報を受け取らなかったか、あるいは、読まなかったために、警報への対応は取られなかった。

 イスラエルはなぜハマスの侵攻を許してしまったのか。朝日新聞と提携しているニューヨークタイムズ(NYT)が、4人のイスラエル情報機関幹部らの証言などに基づいて検証しました。ハマスの侵攻時にイスラエル側が初動対応でミスを重ねていたことが浮かび上がってきます。記事全訳を朝日新聞デジタルに掲載します。

 その直後、ガザを支配するハマスがドローンを送り込み、イスラエル軍の携帯通信局と国境沿いの監視塔の機能を停止させ、当直将校らによるビデオカメラでの遠隔監視を不可能にした。ドローンはまた、イスラエルが国境の要塞(ようさい)に設置した遠隔操作の機関銃を破壊し、地上攻撃に対抗する手段を奪った。

 こうして、ハマスの襲撃者たちが国境フェンスに近づき、その一部を爆破したり、数カ所で驚くほど簡単にブルドーザーで破壊したりすることがやりやすくなり、数千人のパレスチナ人がその隙間から侵入した。

 イスラエルの初動の失敗について、匿名を条件にイスラエル情報機関の高官4人は、こうした作戦上の失敗や不備の連鎖が、ガザのイスラエル南部への侵攻に道を開いたと語った。

 イスラエルの20以上の町と陸軍基地への大胆な侵入は、過去50年間における、イスラエル防衛網の最大規模の破壊であり、国民の安全意識を打ち砕いた。何時間もの間、中東最強の軍隊が、はるかに弱い敵に反撃する能力を失い、下着姿の兵士を含む900人以上のイスラエル人が殺害され、少なくとも150人が拉致され、四つの軍事キャンプが制圧され、イスラエル領土の30平方マイル(約77平方キロメートル)以上にわたって拡散した襲撃集団に対して、村々はほとんど無防備となった。

取材に応じた4人の当局者は、初動の評価に基づいて、攻撃が成功した背景に、イスラエルの情報機関や軍による以下のような安全保障上の失敗があったと語った。

読み違え? システム過信? イスラエル側の「失敗」とは

●イスラエルの諜報(ちょうほ…

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    鈴木一人
    (東京大学大学院教授・地経学研究所長)
    2023年10月15日8時43分 投稿
    【解説】

    NYTの記事ではあるが大変興味深い記事。インテリジェンスはいくら資金をつぎ込もうが、最先端の機器を使おうが、最初の前提が間違えていたら全てが無駄になるということを示している。今回は脅威の測定のミスとフェンスなどの物理的な障害や装置が有効であ

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