心理学者が見た社会の不条理 「ざまぁ」「世直し」動画を求める理由

有料記事

聞き手・加藤勇介

 悪徳業者やマナー違反者などに制裁を加える「世直し系」、浮気をしたパートナーや自己中心的な人が報いを受ける「ざまぁ系(ざまぁみろ)」、「スカッと系(スカッとする)」といった動画が人気だ。「世直し系」投稿者の「私人逮捕」には、「よくやってくれた」と称賛が送られる一方で「やり過ぎだ」「正義の暴走」と批判も飛び交う。危うさや露悪さも含んだ正義になぜひかれるのか。感情心理学を専門とする学習院女子大の澤田匡人教授に聞いた。

 ――こうした動画、好きで見てしまいます。厳しく問い詰める様子を面白く思う一方、悪趣味だと自己嫌悪にもなり…。

 「一連の動画がユーチューブやSNSで高い再生回数を示している事実を否定せず、むしろ人々のニーズに合致していると考えるべきでしょう。冤罪(えんざい)のリスクや過度な制裁には注意を払わないといけませんが、一定の配慮がなされていてエンタメとして楽しめるものなら、私は決して悪いとは思いません」

 ――いいんですか?

 「『シャーデンフロイデ』という感情があります。ドイツ語のSchaden(害)とFreude(喜び)を合体させた言葉で、日本語で言うと『人の不幸は蜜の味』のような意味合いです」

 「シャーデンフロイデを感じる条件は『相応な不幸である』や『過度な不幸ではない』など様々ですが、その中に、感じる側の劣等感の強さや自己評価の低さがあります。悪者が報いを受けているのを見ると、自分の置かれた境遇はこれほどひどくないと思えます。また、『ざまぁ系』や『スカッと系』で立場が上位と思われた人物の転落劇は、シーソーゲームのように自分の地位があたかも上昇したかのように感じさせてくれます。そうした点で、一連の動画視聴により、ある種の安心感を得ている可能性があります。言い換えれば、動画を見る度に、日頃感じている心の痛みが緩和されているかもしれない、ということです」

 「誰にでも自己評価が下がる局面があります。自己評価が低くなっている時ほど、人の不幸がうれしく感じられやすくなります。条件がそろえばどんな人でも経験しうる感情ですから、シャーデンフロイデを感じたからといって、殊更に自分を責める必要はありません」

「すっぱいブドウ」と逃げることすらできない社会

 ――因果応報の物語は昔話や時代劇でも定番ですが、「世直し」「ざまぁ」「スカッと」の形で流行するのはなぜでしょうか。

 「現代社会では、不条理な出…

この記事は有料記事です。残り1657文字有料会員になると続きをお読みいただけます。

※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません