見捨てられる恐怖に突き動かされたハマス イスラエルは甘く見ていた

【動画】パレスチナ自治区ガザ地区からイスラエルに向けて発射されたロケット弾=ロイター
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 パレスチナイスラエルの間で、激しい武力衝突が起きています。なぜいま、大規模な衝突が起きたのか。この衝突は中東和平の実現や、イスラエルとアラブ諸国との間で進みつつあった関係改善にどのような影響を及ぼすのか。防衛大学校の立山良司名誉教授に聞きました。

 ――今回の大規模な衝突をどう見ていますか。

 ガザ地区を実効支配しているイスラム組織「ハマス」によって行われたロケット攻撃の規模が、短時間に2千発以上ときわめて大きかったこと。ハマスを含むパレスチナ側の戦闘員が、非常に高い塀を越えて大規模な越境攻撃を仕掛けたこと。加えて、今回の攻撃を、イスラエルが事前に察知できず、民間人を含む大きな被害を許してしまったこと。これら全てが、これまでに例のないことです。非常に驚いています。

 ――なぜこのタイミングで、こうしたことが起きたのでしょうか。

 実は、パレスチナを巡って「何かが起きるかもしれない」とは思っていました。一つ目の理由は、ハマス側の事情です。この夏、ガザ地区でハマスに対する住民のデモが起きました。異例のことです。

 世界銀行によると、ガザ地区の直近の失業率は46%で、15~29歳に限ると59%にのぼります。イスラエルによるガザ地区の封鎖は解かれる見通しがなく、可能性もほぼありません。自分たちの将来の展望が全く見えず、経済状況もよくない。こうした状況はこれまで、ハマスへの支持と、パレスチナ自治政府に対する批判につながってきましたが、一方で「ハマスを支持しても、先が見えない」という不満も高まりはじめています。ハマスとしても、この状況を「何とかしないといけない」と思っていたとみられます。また、イスラエル軍が今年7月、パレスチナ自治区ヨルダン川西岸地区のジェニン難民キャンプを攻撃したことについても、ハマスは目をつぶれなかったのでしょう。

イスラエルの情報収集力が落ちていた?

 もうひとつの理由は、イスラ…

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    西岡研介
    (ノンフィクションライター)
    2023年10月8日22時31分 投稿
    【視点】

    いくらイスラエルから約9000キロ離れた日本の庶民でも、「双方の死者が、市民も含め500人以上」とか言われたら、正直悲しすぎて、とても無関心でおられへんわけですよ。パレスチナとイスラエルの対立(宗教的なそれも含め)については、僕ら日本人も、

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    小熊英二
    (歴史社会学者)
    2023年10月9日9時23分 投稿
    【視点】

    パレスチナ側が見捨てられる形での「問題の終息」が近づいていた時期に、こういう事件によって、そうはいかないことが突き付けられた。 何ともやりきれない話だが、それが枝葉末節を省いた根本だと思う。そうである以上、問題の解決もまた、枝葉末節を

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