本好き集い、泊まれる書店 白馬村、新たなスタイルで「復活」

長野朝日放送・山岸玲
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 10年近く書店がなかった長野県白馬村に7月、新しい書店がオープンした。新刊本は扱わず一般的な古書店とも違う、少し変わった形態。しかも「泊まれる書店」だ。

 JR白馬駅近くで7月1日にオープンした書店が「Re:Public(リパブリック)」。壁には約30センチ幅に区切られた棚に本がぎっしりと並んでいる。

 この1区画を年間2万4千円で貸し出し、棚主(契約者)の蔵書などから好きな本を好きな値段で置いてもらう。「ブックアパートメント」と呼ばれ、東京を中心に数年前から増え始めた。

 7月末時点で、150ある棚のうち50あまりの棚は契約済み。手書きのポップで「棚名」を出す棚主や、1冊1冊にその本の思い出をしたためる棚主もいる。アメリカの大手企業のエンジニアが、好きな漫画の1巻だけを置く棚もある。

 店を立ち上げた共同代表の一人、田中直史さん(49)はブックアパートメントの魅力を「本棚の裏に人がいること。客は本と同時に人に出会える。棚主同士で新しい友人やコミュニティーもできている」と話す。

 棚主の藤村立葉さんは「本棚で眠っている本を、他の人が手に取ってくれたらうれしい。小さな本屋さんができたみたい」と笑う。

 ここは2014年に閉店した「フクシマ書店」だった建物。その経営者の息子、福島洋次郎さん(48)がもう一人の共同代表だ。「近くの小学校の子どもが、冬に店内で本を読みながら家族の迎えを待つなど、コミュニティーの場でもあった。それを何とか復活させたくて」

 父親の信行さん(80)は「本離れの時代に書店としての営業はどうなるかなと思うが、『書』に興味ある人が集まるような場所になれば」と話す。

 そんな思いを反映して、店内にはカフェスペースも作った。そして2階に設けたのが宿泊施設。スポーツ雑誌の何十年分ものバックナンバーなど、宿泊者だけが読める本も置いた。

 「本好きな人が本に囲まれて泊まれる場所にしたかった。白馬は外でいっぱい遊べる観光地。部屋の中で楽しめる場所があっても面白い」と福島さん。ベッドを置いた広々とした部屋は1泊1万1千円からだ。

 共同代表の田中さんと福島さんは、白馬村のイベントで知り合った。東京でイベント企画や空間デザインを手がける会社を経営する田中さんに、福島さんが空き店舗だった書店の相談を持ちかけたのが3年前。すぐに「書店復活プロジェクト」がスタートした。

 クラウドファンディングや行政からの補助金も使い、改装はほとんど手作業。田中さんは「目指すのは知識のインフラ。色々な人がここをきっかけに新しい知識や人に出会い、交流する場になれば」とビジョンを描く。

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