病院で宿直中に死亡対応しても「労働時間ゼロ」 労災申請で国が判断

枝松佑樹
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 東京都内の大学病院に勤めていた医師が、宿直した際に深夜から朝まで入院患者の死亡に対応したにもかかわらず、病院が「宿日直許可」を得ていることを理由に、厚生労働省が労働時間として認めない判断をしていたことがわかった。

 医師の代理人弁護士が22日、厚労省で会見し、明らかにした。

 「宿日直許可」は、夜間や土日に入院患者の急変や外来患者に対応するため医師が待機する「宿直」「日直」について、業務内容が「軽度または短時間」であれば、労働基準監督署の許可によって、特例的に労働時間としてみなさなくてもよくなるもの。

 ただ、厚労省の許可基準では、患者の死亡などへの対応は「通常の勤務時間と同態様の業務」と明示しており、実際に対応があれば労働時間として扱うよう定めている。

 基準を守らせるべき立場の厚労省が、それに反する判断を示した可能性がある。

 この医師は50代の男性で、2018年11月にくも膜下出血を発症し、現在も入院している。19年10月、「月100時間を超える長時間労働をつづけた結果だ」として、労基署に労災を申請した。

 男性側は「宿直中も心身の過重な負荷をともなう診療をしていた」と主張している。

 代理人弁護士によると、例えば18年10月に宿直した際、午前0時過ぎに入院患者の急変で呼ばれ、午前2時15分に死亡を確認。家族への説明、死亡診断書の作成、お見送りなどで一睡もできないまま、翌日も通常通り勤務したという。

 労災申請に対して労基署は、男性医師の病気は業務と関係ないと判断した一方、月3~4回おこなっていた宿直について、午後5時15分~翌午前8時半までのうち、仮眠6時間を除く9時間15分は一律にすべて労働時間だったと認めた。

 病院側も、仮眠以外の時間は労働時間だったと認めているという。

 一方、これを不服とした審査請求に対し、厚労省東京労働局の審査官は、宿直は「ほとんど労働する必要のない勤務だった」と判断し、15時間15分すべてを「労働時間ゼロ」とした。根拠の一つとして、病院が宿日直許可を得ていることを挙げたという。

 代理人弁護士は「労基署と審査官は、厚労省の許可基準を踏まえた労働時間の認定をしておらず、『医師の働き方改革』に逆行する」と主張している。現在、再審査請求に対する裁決を待っている。

 厚労省労働基準局の担当者は取材に対し、「宿直中に通常業務があったかは個別に調査しなければわからないため、(審査官の判断が)許可基準に反するかどうかは答えられない」とした。

 宿日直許可をめぐっては、来年4月から「医師の働き方改革」が始まり、時間外労働が原則年960時間(月80時間相当)に罰則付きで規制されるのを前に、厚労省が取得を積極的に勧め、病院も相次いで申請している。

 しかし、実際には働いているのに労働時間とみなされない「隠れ宿日直」が存在するという指摘もある。(枝松佑樹)

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