「虐待は親の能力不足」で済ませる社会 子育てには「助けて」が必要
全国の児童相談所が2022年度に子どもの虐待について受けた相談件数は21万を超え、32年連続で過去最多を更新した。「虐待をしてしまった親への支援が不十分ではないか」。動物の親子関係や虐待加害者の脳の研究に取り組む東京工業大の黒田公美教授(行動神経学)は、そう指摘する。
――研究を通じてどんなことがわかってきているのでしょうか。
虐待によって子どもが亡くなったり重いけがを負わせたりして実刑判決を受けた男女38人に調査をしました。
自身が虐待を受けて育ってきたり、保護者が何度も代わったり……。複雑な家庭環境のもとで育った人が何人もいました。
ほかにも生活保護を受けていたり、そこまで至らないけれども低収入だったり、DV被害を受けていたりするなど、さまざまな困難を抱えながら子育てをしてきたことがわかりました。
何らか支援があれば、虐待を防げたかもしれません。虐待を本人の能力や責任ととらえるのではなく、社会の責任ととらえる必要がある、と考えています。
親が育った環境も大事
――虐待をしてしまう親の背景には何があるのでしょうか。
子どもに虐待をしてしまったその時の状況だけでなく、親の幼少期の経験など、様々な要因が重なりあって起きます。
たとえば、親が育った時の生育環境です。親の不在、虐待を受けた経験などの影響は、大きいものです。
大きくなるにつれ、そうした幼い時の経験が不安や抑うつ傾向として表れたり、アルコールや性への依存が出たりして、心の問題を引き起こすことがあります。衝動的に、他人に攻撃的に行動することもあります。
そうした経験の影響を背負いながら、DVを受けたり、離婚や事故でひとり親になったり、貧困に陥ったりすると、子育てをする余裕がなくなります。自分が生きるのに精いっぱいで、子どもに目を向けることができなくなるのです。
38人へのアンケートでは、「行政などに相談したかったが、相談したことが夫にばれるのが恐ろしく、何もできなかった」「相談しても、親の愛情が足りないとしか言われなかった」など、苦しい胸の内が明かされました。
不幸が重なることは誰にでもあり得ます。だからこそ、助けを求められる環境や支援が必要です。
子育ては経験重ねないとできない
一方、注意して考えるべき点…