今月2日、岩手県宮古市魚市場の食堂で、宮古漁業協同組合(漁協)組合長を務める大井誠治・県漁業協同組合連合会(県漁連)会長(88)は、西村康稔経済産業相や官僚たちと向き合っていた。テーブルには、水揚げされた魚の刺し身が並んだ。
東京電力福島第一原発の処理水放出をめぐり、西村氏とはこの3カ月間、毎月会ってきた。7月には県漁連幹部と大臣室に乗り込み「おれたちは賛成ではない。消費者が承知しない」と釘を刺した。
8月21日にも、東京の全国漁業協同組合連合会(全漁連)に放出への理解を求めるために来訪した西村氏に対し、坂本雅信・全漁連会長らと応対。放出反対の立場を改めて示した。
しかし、それは「通過儀礼」となった。3日後、放出は始まった。
県漁連の会長になって18年。東日本大震災、不漁……。いくつもの苦難がのしかかってきた。そこにまた処理水の問題が重なった。
「大事なのはこれからだ」。大井会長は静かに「潮目」を見ている。
2日の西村氏来県の日もそうだった。
「人気の食堂があるそうです…