世界が注目する気候テック、巨額の支援合戦 日本に新たな市場は

気候変動を考える

市野塊
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 テクノロジーで気候変動対策に取り組む企業「気候テック」が世界で注目されている。各国が脱炭素を目指す中、ベンチャー投資が熱を帯び、気候テック市場に資金や人材が流入。日本政府も来年度から予算を大幅に増やして支援を強化する。

 気候変動は人類存続の問題でもあり、ビジネスチャンスでもある。各国は巨額の補助金や融資を行い、技術や人材を競い合う。「グリーン軍拡競争」と呼ばれる状況だ。

 米国では昨年、「インフレ抑制法」が成立。エネルギー安全保障と気候変動対策に、補助金や税額控除で10年間に約52兆円を支援する。再エネや二酸化炭素を回収して地下に埋める「CCS」などの電力に4割、電気自動車(EV)や蓄電池などの製造業に1割などターゲットは幅広く、「米国産」の製品や企業も優遇する。EV関連の税額控除では、工場の設備投資や生産コストのほか、EV購入者が受けられるものまで一気通貫の手厚い内容だ。

 欧州連合(EU)も「グリーンディール産業計画」を打ち出し、税額控除などにEU予算から約38兆円をあてる。排出量取引やエンジン車規制などルール作りを主導して、新しい市場を作っている。ドイツや韓国でも脱炭素市場への投資促進策の検討が進む。

 気候テックの大きな波に、日本はうまく乗りきれるのか。

 5月に「GX(グリーン・トランスフォーメーション)推進法」が成立。社会の脱炭素化に今後10年間で官民で150兆円の投資が必要とし、政府も20兆円を支出する。総額2兆3千億円のグリーンイノベーション基金も21年度から続く。

 ただ、用途は自動車や再エネなどが中心のため、大企業に偏る懸念もあり、気候テックのスタートアップにどれだけ流れるかは見通せない。製品に環境性能の規制基準を設けるなどし、需要を生み出すといった市場づくりを後押しする姿勢は弱い。

 米国の調査会社が今年報告した気候テック企業の上位100社には、米国がトップの54社、アジアでは中国が1社入ったが、日本はゼロ。存在感が乏しい。

 こうした中、政府は昨年末に「スタートアップ育成5か年計画」を掲げ、過去最大の1兆円規模の起業支援を表明。今年6月に決めた「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」では、ここに気候テックを含むことを明示した。

 環境省では今年3月、気候テックに投資する際に参考にしてもらう枠組みをつくる検討会も立ち上げた。担当者は「気候テックは環境問題への貢献度が高いビジネスであるほど、そのまま成長の優位性になる。環境問題の専門的な見地からの情報を投資の参考にしてもらいたい」と話す。政府の24年度のGX関連の概算要求でも、スタートアップ育成支援に5年で約2千億円を計上している。

 ただ、気候テックは、ITと比べ、製品開発に初期投資が多く必要な上、事業化までの時間も長いとされる。00年代後半にも再生可能エネルギーを手がける新興企業が「クリーンテック」ともてはやされたが、ブームで終わった。

 日本では消費者の気候変動に関連した購買行動が米国やEUに比べると低く、需要が生まれにくい土壌もある。投資家がこうした点にリスクを感じ、投資が続かないおそれもある。

 気候テックの起業支援に携わる東京大学の馬田隆明さんは「支援が開発などの供給側に偏っている印象がある。需要をどうつくるかも大事だ」という。「グローバル市場で競争力を持つために、国策としてどうやって気候テック市場を成長させていくかも考える必要がある」と指摘する。(市野塊)

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